子どもと乗る飛行機は楽しみ少々、不安てんこ盛り
子育ての楽しみとは、と聞かれたら、「親子で旅をすること」が真っ先に頭に浮かぶ。
息子が0歳のときから9歳になるまでは、年に1回は世界のどこかに出かけていた。コロナ禍によりしばらく旅はおあずけになっていたが、ようやく出入国しやすくなってきたので、どこかに出かけたいなあと計画をゆるく練っているところだ。
大人だけの旅と違い、子どもがいっしょだと海外はもちろん、国内だってそれなりにハードルが上がる。なかでも「飛行機での移動」は心配事の上位にランクインするだろう。泣くかも、退屈するかもと考えては、対策グッズ探しに奔走した当時を振り返って、「過去の私たち、グッジョブ!」とねぎらいたい気持ちでいっぱいになる。
離陸するまで飽きさせない、寝させない(0歳から2歳)
抱っこがメインの乳児期には、近場であれば日中のフライトを、6時間以上かかるなら深夜便を選ぶことにしていた。どちらの場合も、飛行機に乗るまではとにかく「誰も寝てはならぬ」。空港に着いたら展望デッキやキッズスペースで遊ばせて、搭乗までの時間を過ごす。
優先搭乗で一足先に機内に通してもらってからが腕の見せどころだ。バッグの中には、息子の好きそうな新品のシールブックやカプセルトイ、そして最後の切り札であるiPad(当時はiPod touchを使用していたが)。ぐずりだしたら、これらがきっと私たちを助けてくれる……、と思っていたが、息子が興味を示して熱心に触っていたのは、機内モニターと操作用のリモコンだった。
飛行機での懸念事項といえばもうひとつ、気圧の変化による耳の痛みも挙げられる。耳抜き、できるのだろうか。タイミングよく授乳するか、はたまたご褒美のジュースを飲ませるか。液体物の持ち込みは1個あたり100mlまでだから、小さいサイズの飲み物を探さなきゃ……。これまた準備に右往左往したのだが、結局、息子は一度も耳が痛いとは言わなかった。のちに、幼児を連れていて明らかに子ども用だとわかれば、100mlを超えていても持ち込みOKだと知った。
それから台湾(生後10カ月)、タイ~ベトナム~ラオス(1歳)と2度海外に渡航してみて、「飛行機、意外と平気かも」と感じた私たちは、初めてLCC(格安航空会社)を利用することにした。行き先はボルネオ。機内モニターなどのお楽しみがないため、これまで以上に持ち物には気を配り、もちろんお守り代わりのiPadもバッグに忍ばせた。今回も深夜便だ。出発前に仮眠してしまった息子は、機内に着いてからも目がぱっちり。そしてまさかの、息子よりも先に母親が寝落ちするという残念な結果に。あれだけ搭乗まで寝かせてはいけない、とか言っていたのに……。
電子機器のおかげで退屈知らず(3歳から6歳)
幼稚園に通い始めてから聞き分けがよくなり、旅の最中、ずいぶん楽になった。この頃に新たな強力アイテムを導入。キッズスーツケース「トランキ」は画期的だった。なんといっても、乗れる。自分の足で漕いでも、大人が引っ張ってもいい。
空港の中って結構広いから、疲れさせずに移動できることは本当にありがたい。なにより、乗っている姿を目撃した周囲の人が「なにあれ。かわいい!」と言っている声が耳に入ってくるのは、最高に気分がよかった。
過去4度のアジア渡航で自信をつけたことで、訪れるだけでも24時間かかるモロッコ行きを決断することができた。息子には「本当に遠いから時間がかかるよ」としっかり念を押しておいた。
そしていざ出発の日。搭乗後すぐに機内モニターをチェックし、パズルゲームを見つけてプレイし、照明が落ちると眠りにつき、8時間近く眠って目覚めたあとにはふたたびゲームやらアニメ映画やらを楽しみ、飛行機を乗り換え、iPadをおもむろに取り出して保存しておいたお気に入り動画を見て、ゲームもやって、ついでに昼寝もして……。そんなこんなでモロッコに無事入国した。
小さな子どもにタブレットを触らせることについては、いまだに正解なのかどうかはわからない。ただ、機内のような自由の効かない特殊な空間で、我が子の不快を少しでも取り除いてくれるのなら大いに頼ればいいじゃないか、と今はもう開き直っている。
あれこれ乗りまくった結果、移動はアトラクションに進化を遂げた(小学生)
小学生になると、ほぼ大人に話す感覚ですべてが伝わるし、こちらがうっかりミスをしたときには「大丈夫、大丈夫!」と励ましてくれるし、すっかり頼もしくなった。
ある程度のきつい移動にも耐えられることがわかったので、旅の候補地選びの幅もぐんと広がり、さらに息子も交えて計画を練られるようになったから、旅の楽しみがぐんと広がった。ほとんど困る点はないけれど、ほぼ唯一の心配が乗り物酔い。モロッコ国内をバスで移動しているときに酔いやすい体質だと気づき、それ以降、必要に応じて酔い止め剤を服用するようになった。
強力アイテムとして大活躍のトランキは物置で静かに眠り、代わりに懸賞でゲットしたキャリーケースが新たな旅の相棒になった。引くのも押すのもらくらくで気に入ったようだし、荷物の管理は彼に一任できるから安心、とはいかない。興味を引くものを見つけると荷物そっちのけになってしまうので、まだまだ親がしっかり見ておく必要がある。
さて、過去10回の海外への旅で、飛行機に鉄道、バス、タクシー、ボート、クルーズ船と、ありとあらゆる交通機関に触れた息子だが、思春期を迎えた今でも乗り物およびその発着場が大好きだ。移動手段イコール、アトラクションへと頭の中で変換される彼のために、行きも帰りも2階建て飛行機に乗るというスペシャルなプランを立てたこともある。
往路はエアバスA380、復路は「ジャンボジェット」の愛称で親しまれたボーイング747。どちらも生産終了のため、今後は徐々に姿を消していく運命にある。残念ながら2階席は予約できなかったが、降りる際に「2階を見学させてもらえませんか?」とお願いしたところ、快諾。なんとコックピットにまで招待してくれた。セキュリティ上難しいかも、と思っていたが、帰国後に見つけたWEB記事に「見学したいとの熱意あふれる親子の場合、許可してくれることもある」とあって苦笑い。
大変かもしれないのに、小さな子どもを連れて旅に出る理由とは。大人だけではきっと味わうことができなかった、現地の人とのふれあいが待っているから。そして、成長著しい我が子の、日常生活では気づかない一面を引き出す機会になるから。これこそが親子旅の醍醐味だろう。飛行機の移動を恐れて出かけないなんてもったいない!と、声を大にして言いたい。出かけてしまえば、あとはなんとかなるのだから。