2020年に誕生して以降、フレグランス好きはもちろん、とりわけ香りに縁遠かった日本人を虜(とりこ)にしている〈サノマ〉。
一貫して根底にあるのはどこか親しみを覚える品の良い、湿った苔のような気配。その上質な香りはパリの熟練パフューマー、ジャン=ミッシェル・デュリエさんとの“膨大なコミュニケーション量”から生まれるとディレクターの渡辺裕太さんは語る。
「ジャン=ミッシェルと出会ったのは、フランスの大学院でMBAを取得する流れで勤めたインターン先。いつも彼にインスピレーションを伝えて、上がってくる試作品を嗅いでは、私のフィルターを通して要素を足したり引いたりします。
結果、知らず知らずのうちに日本人好みになっているのかもしれません。試作の間に何度もやりとりするんですが、これほど調香師と贅沢に言い合えるブランドは多くないはず。私自身、18歳の頃からの香水マニアで、身銭を切って数百本買ってきた経験が今、ディレクションに生きているのだと思います」
1−24、2−23、3−17……これは何かの記念日ではなく香りを示す数値。上は香りが作られた順番を、下は完成に至るまでのサンプル数を指す。この値からも、試作の多さが窺える。
「中でも“鈴虫”を冠した《1−24》は、ずっと表現したかったもの。今も昔も心動かされる、夏の終わりの暑くてじめっとした空気に、ふっと冷たい風が吹く瞬間。あの刹那を香りに落とし込みたかったんです。あたたかいサフランと、冷たいカルダモンと……奥行きのある香りに仕上がりました。〈サノマ〉のどの香りにもそんな“感動”を閉じ込めています」

目指すのは、時代が変わっても残る香り。それこそが真の「良い香水」だと捉えている。
「得てして“ハレ”の要素が多いプロダクトですが、生活の大半は“ケ”。日本の暮らしに寄り添う香りを感性と技術の両面で実現するのが〈サノマ〉です」
