ドラマの歴史=ラブソングの歴史!?
座談会キャスト:山﨑ケイ(お笑い芸人)× 中尊寺まい(ミュージシャン)× 佐野亜裕美(ドラマプロデューサー)
山﨑ケイ
ドラマの話をしだすと、本当に止まらないよね。
佐野亜裕美
95年くらいからって、ドラマの黄金期ですよね。どの作品も神がかってますよ。
中尊寺まい
私は『ピュア』がすごく好きでした。和久井映見さんと堤真一さんが出ていて。

1996年放送。軽度の知的障害がある芸術家・優香(和久井映見)が、後に優香の作品集の編集担当となる週刊誌の記者・徹(堤真一)の凍りついた心をピュアな愛で包む物語。
佐野
主題歌、ミスチルの「名もなき詩」ですよね。
中尊寺
毎話、楽曲の流れる箇所が違うんですよ。Aメロからの時もあれば、2番サビからの時も。
佐野
たしかに2番サビ「愛はきっと奪うでも与えるでもなくて 気が付けばそこにある物」も流れていた記憶があります。
山﨑
私、『ピュア』の堤真一さんのモノマネをよく学校でしてました。「俺が育った場所だ………孤児院だ」って、めっちゃセリフの間をためるのがポイント!
一同
(爆笑!)。
中尊寺
このドラマ、羽がすごいモチーフになってましたよね。エンディングで和久井映見さんに白い羽が舞い落ちていたイメージ。
佐野
タイトルバックにちゃんとお金をかけて作れている時代ですね。
中尊寺
あの頃ってそうですよね!『ビーチボーイズ』なんかオープニングが海外ロケの空撮でしたもんね。ちなみに反町隆史さんの歌う主題歌「Forever」にはボン・ジョヴィのリッチー・サンボラがギターとコーラスで参加してるし、本当にお金のかけ方が半端ない時代!
山﨑
いい時代すぎる。海外の子どもが流したメッセージボトルが、日本までたどり着くっていうところも第一話のはじまりとしてオシャレなんだよね。
佐野
予算感がすごいですよね、うらやましい!
中尊寺
反町隆史さん、和久井映見さんとも月9やってましたよね?
山﨑
『バージンロード』!
中尊寺
主題歌が「CAN YOU CELEBRATE?」で、タイトルバックで安室ちゃんが登場するヤツ!当時、主題歌を歌う歌手がオープニングに出る作品ってよくありましたよね。『Age, 35 恋しくて』とかも。
山﨑
シャ乱Q出てきてたわ!
中尊寺
シャ乱Qの「いいわけ」は捨てどころがないんです。ちゃんとサビ前にフックもあるし、エンディングのギターも、シーンの最後に流れるとぐっとくるっていうか。
山﨑
すごい、ミュージシャンだからこその視点!
中尊寺
私、性の目覚めがあのドラマの中井貴一さんでした(笑)。
佐野
『東京ラブストーリー』の柴門ふみさん原作なんですよね。脚本は中園ミホさん。本当に面白い作品!
中尊寺
まさに『東京ラブストーリー』の不倫版だと思ってます!瀬戸朝香さんが『東京ラブストーリー』の赤名リカっぽくてかっこいい!
山﨑
佐野さんってドラマづくりを志すきっかけの作品とかあります?
佐野
難しい質問ですね……きっといろいろあるんでしょうけど……あ、『神様、もう少しだけ』は当時かなりドハマリしていましたね。深田恭子さんが本当に素晴らしくて。内容的には今の価値観だとちょっと観返しにくいのですが……。
山﨑
深キョン、同世代の星ですもんね!内容は援助交際からHIV感染症までかなりセンセーショナルだったけど、すごく記憶に残ってる。
佐野
当時中学生だったんですけど、ドラマを観たらすぐ感想を書いて友達にFAXで送り合うというのをやっていました。その名も「神すこ通信」(笑)。
山﨑
FAXでのやり取り、なつかしい!
佐野
ドラマの主題歌ってもちろん最初から最後まですべて大事なんですけど、映像にのせるときに一番気にするのはイントロとサビなんですよね。LUNA SEAの「I for You」はそのどちらも完璧でしたね。
中尊寺
『東京ラブストーリー』の「ラブ・ストーリーは突然に」のチュクチューン♪とか。『ロングバケーション』の「LA・LA・LA LOVE SONG」もやっぱりイントロの入りがいいですしね。
佐野
久保田利伸さんは『水曜日の情事』の主題歌「Candy Rain」もおすすめです!
山﨑
『水曜日の情事』って野沢尚さん脚本なんだ?『眠れる森』も観てたなぁ。
中尊寺
ねぇ、『おそるべしっっ!!!音無可憐さん』の話もする?主題歌、deepsの「ハピネス」だよ。
山﨑
コギャルっぽい感じがめっちゃ平成って感じ!!
中尊寺
なんせ“裏SPEED(=deeps)”ですからね(笑)。
山﨑
平成の恋愛ドラマで言うとキムタクの出演作も外せないよね。
佐野
『Beautiful Life 〜ふたりでいた日々〜』とか。
山﨑
男子はみんな柊二(木村拓哉)と同じダウンベストやフリース着てたもんな〜。
中尊寺
美容師さんはみんなあの役のキムタクに憧れたって言いますよね(笑)。
佐野
主題歌がB’z(「今夜月の見える丘に」)なのもびっくりしました。あの作品は『愛していると言ってくれ』とほぼ同じ制作チームだと思うんですが、DREAMS COME TRUEの「LOVE LOVE LOVE」とはまったく違うテイストの曲でいきたかったのかなあと勝手に想像します。
その後も木村さんの主演作でB’zが主題歌を手掛けることがあったり、木村さんご自身に楽曲提供もされているので、この作品からご縁が始まったのかなと思いました。
山﨑
主演・木村拓哉作品って主題歌まで本当によすぎる!
佐野
でも私の一番好きな木村さん主演作の主題歌は『ラブジェネレーション』かも。大滝詠一さんの「幸せな結末」の作詞は当時のフジテレビ社員らとの共同ネームになっていますが、実は印象的な歌い出しの歌詞は、坂元裕二さんが作詞の手伝いをしているんです。

1997年放送。広告代理店で働く哲平(木村拓哉)と、同じ営業部に勤務する生意気な女性社員の理子(松たか子)。対立しながらも、やがて2人の仲は運命の恋に発展する。
中尊寺
初耳すぎる!
山﨑
キムタクの月9『ロンバケ』からの『ラブジェネ』の流れは本当に最高。トレンディドラマの名残というか、キラキラ感。
佐野
90年代で言うと野島伸司作品もありますね。主題歌がカーペンターズとか懐かしの洋楽で。
山﨑
実は私、野島作品だと『世紀末の詩』が好きなんですけど、わかりますか?

1998年放送。最愛の人に裏切られた野亜(竹野内豊)と、学長選挙に敗れた大学教授の百瀬(山﨑努)が、愛とは何かを問う。一話完結形式で、様々な愛の形を示していた。
佐野・中尊寺
大好き!
佐野
本当に素晴らしいのに観ている人が周りに少なくて、あまり語られていない作品ですよね。野島さんの作品だと、『高校教師』『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』『未成年』の「TBS野島三部作」のイメージの方が圧倒的に強くて。
山﨑
なんか不思議な作品で、内容も哲学的なんだよね。大人になった今、ちゃんと観返したい。主演が竹野内豊さんってところもよかったので。
佐野
そしてエンディングで毎回違う野島さん作の愛の詩が映って、主題歌の「LOVE」が流れる展開。
中尊寺
ジョン・レノンの声がまた、せつないんですよね。
佐野
斎藤洋介さんと遠山景織子さんがゲストの第2話はとにかくオススメ!本当に名作です!
中尊寺
ちなみに洋楽の主題歌で言うと、『ギフト』の主題歌が、ブライアン・フェリー「Tokyo Joe」、『沙粧妙子−最後の事件−』の主題歌がロッド・スチュワート「Lady Luck」、『ランチの女王』はスリー・ドッグ・ナイト「Joy To The World」だったりもしてますね!
佐野
洋楽を使うと、権利の問題でVHSなどのソフト化が難しかったりしたはず。でもそこは、プロデューサーや監督の熱い思いで主題歌に選んでいたんでしょうね。野島さんの場合は、ご本人のこだわりもあったのかもしれませんが。
楽曲から作品を思い出せるドラマは名作の証し
山﨑
2000年代は『ムコ殿』も良かったな。長瀬智也さん演じる桜庭裕一郎の「ひとりぼっちのハブラシ」が挿入歌で。

2001年放送。孤独なトップスター・桜庭裕一郎(長瀬智也)が、一般人のさくら(竹内結子)と極秘結婚。婿養子となり、家族を作るホームドラマ。2003年には続編も放送。
中尊寺
ドラマから生まれた架空の歌手が実際にオリコンで1位を取るの、すごいですよね!
山﨑
今観ても面白いよね。コレ、女子はみんな好きよ。
中尊寺
それで言うと、『恋ノチカラ』も外せないです!

2002年放送。恋も仕事も諦めていた冴えない30代の籐子(深津絵里)が、貫井(堤真一)の会社への転職を機に、再び仕事・恋愛に奮闘する姿を描くハートフル・ラブコメ。
山﨑
わかる!とにかく、恋に仕事に大忙しなところがいい!
中尊寺
小田和正さんの主題歌「キラキラ」も冬の凜とした空気にマッチしてました。幸福感のあるイントロが良すぎる!
佐野
今、ラブストーリーって一番企画書が書きにくいと思います。恋愛だけだとなかなか通りにくくて、恋愛をやるなら、異ジャンルと掛け合わせるとか、社会問題を盛り込むとか。
山﨑
「この俳優たちの恋愛模様が見たい」だけでドラマを楽しめた頃が懐かしい……。
佐野
でも、時代が暗くなるとラブストーリーが大流行するという定説もあるんですよ。最近だと『silent』とか。
中尊寺
Official髭男dismの主題歌もヒットしましたね。
山﨑
ドラマと曲の関係で言うと、『モテキ』も良くて。

2010年放送。三十路間近のモテない草食系男子・幸世(森山未來)に、ある日突然「モテ期」が到来。相手役の俳優は野波麻帆、満島ひかり、松本莉緒、菊地凛子が名を連ねる。
中尊寺
王道のJ−POPがたくさん劇中で流れるところもニクい。
佐野
オープニング曲も印象的ですよね。大根仁さん監督、森山未來さん出演の「夜明けのBEAT」の特別MVもいいんですよ!
山﨑
実は私のイチオシは、エンディングの方の「J−POP」って曲。「君はJ−POPが嫌いで 僕はLOVESONGが嫌いだ じゃあこの詩は何て言うんだい?」っていう歌詞で、私は今日も電車で聴いて泣いちゃいました。
中尊寺
『モテキ』に使われるJ−POPたちの総括みたい。
山﨑
楽曲の公式YouTubeを観てもドラマに対するコメントが多くついていて。やっぱり音楽ってドラマを思い出す装置だなって。
中尊寺
コメントに「陰キャだった俺も今では3人の子の親になり……」ってあるの、泣けますね。
佐野
曲を聴くと、ドラマの映像と、それを観ていた当時の自分を一緒に思い出しますよね。
山﨑
最近は主題歌の印象が薄い作品も多いけど、『義母と娘のブルース』はMISIAの「アイノカタチ」がちゃんと一緒に思い出せるな。期待しないで観始めたらハマって、毎回泣きまくり。

2018年放送。バリキャリの亜希子(綾瀬はるか)は、良一(竹野内豊)と結婚し、連れ子のみゆき(横溝菜帆→上白石萌歌)の母親に。その後一人親として、懸命に娘を育てていく。
佐野
原作は4コマ漫画なんですよ。原作からの話の広げ方が本当に素晴らしい作品です。
山﨑
庶民的な話なのに壮大な主題歌がマッチしてて、ありふれた日常の中にある愛を感じちゃう。もちろん、MISIA楽曲については『やまとなでしこ』の「Everything」が最高なのは言わずもがな。
中尊寺
佐野さんにはぜひ『大豆田とわ子と三人の元夫』の話を聞きたい!主題歌「Presence」はまさかのラップですよ?

2021年放送。3回離婚した建設会社社長・大豆田とわ子(松たか子)と、元夫の八作(松田龍平)、慎森(岡田将生)、鹿太郎(角田晃広)の交流が軸の、上質な雑談ドラマ。
山﨑
私も大好きです!
佐野
ありがとうございます。最初は脚本の坂元さんと“とわ子音頭”という話をしていたんですけど、次の打ち合わせでラップはどうだろうとなって。アーティストの人選はヒップホップに詳しい藤井健太郎さんに相談しました。
中尊寺
役者×ラッパーの組み合わせも斬新だし、エンディングも毎回MVみたいにおしゃれで見入っちゃいました。
佐野
昔の作品を振り返って改めて思うのは、お金をかけてこだわりのタイトルバックを作っていることの良さですよね。今って主題歌も本編に入れちゃうじゃないですか。オープニングやエンディングは飛ばされてしまうから。
山﨑
たしかに最近のドラマに主題歌の印象がないのって、飛ばしてるからなのかな。
中尊寺
でも本編に主題歌が入ってもセリフと重なったりするから、結局印象が薄れてる気がする。
佐野
『カルテット』の時もそうですが、坂元さんの作品はクライマックスが会話劇になることが多くて主題歌を乗せづらいんです。だからちゃんとタイトルバックを作りたいと思って。
山﨑
そうされたら観ちゃう!
佐野
昔のドラマに憧れた人が今もそこを頑張ってる気がします。
中尊寺
そういえば『最高の離婚』のエンディングに桑田佳祐さんが出てきたりしてましたね。
山﨑
制作陣も手間暇かけてがんばってるんですよね。ちなみに私、『カルテット』のエンディングも大好きです。主題歌・Doughnuts Holeの「おとなの掟」、最初の呼吸音がヤバすぎて!
佐野
あれは椎名林檎さんがレコーディングの時に、松たか子さんの呼吸があまりに素晴らしいということで残してくれたものなんです。
山﨑
本当にかっこいいです!ドラマの世界観にも合ってるし。
中尊寺
最近のドラマでいうと『続・続・最後から二番目の恋』のエンディング曲「ダンスに間に合う」もよかったなぁ。思い出野郎Aチームの曲を、小泉今日子&中井貴一名義で、二人で歌ってるのが作品の延長線上って感じで。思い出野郎Aチームが劇中にカメオ出演している演出も最高!
山﨑
それに、『最後から二番目の恋』シリーズはずーっと主題歌をayuが担当しているところもいいんだよね。毎回変えてもいいはずなのに、キャストも歌手も一緒に年を重ねて続いている感じがこの作品っぽい。
中尊寺
ドラマの主題歌を聴き直すと、観ていた当時のこととかいろいろ思い出しますね。
佐野
今回、ドラマから主題歌を思い出すというより、主題歌からドラマを思い出すベクトルの方が強いと思いました。やっぱり頼りになりますね、主題歌は。