ホラー漫画家・伊藤潤二が描く恐怖と美しさ

伊藤潤二
先日のワンマンライブは、私も半ばトランス状態になりました。最近、カミさんと義母が不在で、自宅で飼ってる猫、犬、トカゲの世話に疲れ気味だったんです。でも、Dos Monosさんのカッコいい波長が自分に流れ込んできて、みるみる元気になりました。
TaiTan
ありがとうございます。改めて今日は「怖いってなんなのか?」って話がしたくて。伊藤先生はいつ頃からホラーに惹かれたんですか?
伊藤
私は子供の頃から怖がりなんですよ。だけど楳図かずお先生の作品に出会って「怖いのに面白い」ってことがあるんだと知り、自分でも描きたくなったんです。
荘子it
たしかに伊藤先生の漫画は、ゾクゾクとワクワクが同時に来ますね。さらに、美しさと怖さの共存もある。デビュー作の『富江』がまさにそうです。
伊藤
私も美女にはどうしても魅力を感じますし、漫画家としては、いかにして女性を魅力的に描くかは腕の見せどころです。一方で、それとは逆にグロテスクなものを描くのも楽しい。怖いものと美しいもの、その両極端を重ね合わせることに、やりがいを感じますね。
荘子it
僕らの今回のEP『Dos Moons』もその両立を目指していました。
没 a.k.a NGS
俺は、今作でDos Monosとしては初めて、美しさを意識してリリックを書いたな。荘子itもリファレンスで『ツイン・ピークス』のローラ・パーマーを挙げてたけど、今考えると“美しい水死体”的なイメージで書いてたかも。
TaiTan
今、ホラーが世界的にブームですけど、伊藤先生の作品ってアジアや欧米でとんでもない人気になってますよね。体感として、一番人気の作品はどれですか?
伊藤
『うずまき』ですね。理由はわかんないんですけど。
荘子it
意外ですね。伊藤先生の作品はアイデアもコンセプトもシャープで、ストーリーも明快です。でも『うずまき』は哲学的というか禅問答的で、先生の作品の中では異色といっていい。でもそんな一見わかりづらい作品が世界中で読まれているのは、勇気をもらえます。
伊藤
荘子さんの言う通りで、あの作品の連載中は「うずまき」の謎を解き明かしたいっていう野望を持ってました。うずまきって古代遺跡にも描かれている普遍的なモチーフなんですね。つまりここには人間の原初的な恐怖の感覚があるんじゃないかと。結局、謎は解けなかったですが。
没
面白いっすね。自然って放っておくと全部うずまきになる気がするし。銀河系も、貝もそう。あと、指紋とか。
荘子it
自然の摂理に逆らわなければ、渦になっていく。
没
そう。俺たちは常にうずまき的な力を受けながら生きてる。
荘子it
『うずまき』の解説でも、佐藤優さんが『資本論』を引き合いに出して、貨幣に魅入られることの恐怖を書いていました。「うずまき」の本質的な怖さは、人間の業とも関わっているのかもしれない。
TaiTan
人間の原理原則として、うずまきにアテンションがいっちゃう。身体の運動としても最終的にはそこを欲望すると。
伊藤
『うずまき』の連載中に3人とお話ししたかったです。インスピレーションが湧いて謎も解けたかもしれない。
TaiTan
じゃあ今こそ続編を……。
伊藤
いや、そこは3人が解き明かしてください(苦笑)。
荘子it
たしかに。太陽、月と来て、中心に渦巻き(=ブラックホール)を持った銀河ってめちゃめちゃしっくりきますしね。考えてみます(笑)。
ロックバンド・Dos Monos、その快進撃を聴け!
音楽制作だけでなく、文筆業、Podcast、映像制作、企画など、三者三様の活躍が目立ったDos Monosが、ついにトリオとして覚醒した。
5月にはアルバム『Dos Atomos』がAPPLE VINEGAR ‒Music Award‒大賞に輝き、東京・Spotify O‒EASTでのワンマンライブは熱狂の渦に。最新EP『Dos Moons』も手応え十分だ。
「前作はヨーロッパツアーを経て、日本人としてのルーツを辿ったんで、今回は自由がテーマでしたね。“これからのDos Monosはヤバい”って感じてもらえるEPが作れた気がします」(荘子it)
