Love

高橋尚子の愛犬ラッピー。金メダリストQちゃんに「足が遅い!」 と言える唯一の存在

出会ってから十数年。喜怒哀楽、いろんな気持ちに寄り添って、いつも一緒にいてくれた。気づけばシニアになった君は、先輩のようでもあり、親友のようでもあり、恋人のようでもある。穏やかな君の隣で、ずっと。

Photo: Naoto Usami / Text: Izumi Karashima / Hair&Make: Hiroko Takashiro

「大反対されたんです。“犬を飼うのはいまじゃないだろう。考えなきゃいけないことを余計に増やすだけだ”と」

Qちゃんこと高橋尚子さんがトイ・プードルのラッピー(♂)と出会ったのは現役のマラソン選手だった2006年。「チームQ」を結成し北京五輪を目指していた時期だった。

「コーチやトレーナーと一緒に半年間、同じ家に住み、朝から晩まで生活を共にする中、私の元チームメイトが料理で私をサポートしてくれていたんですが、彼女がチームを離脱することになったんです。悩みを抱えていたことを、私は気づいてあげられなかった。リーダーとして失格だなと自分を責めたりしたんですね。そして、彼女がやめる前、一緒にペットショップに行ってみようよと誘ったんです。

そうしたら、トイ・プードルの仔犬がいて。抱いた瞬間だけ、悩みがふわっと消えたんです。ただただかわいいと思う時間を過ごしたときに、私は、選手としてはうまくオンとオフを切り替えることができるんですが、普段の生活ではそうではないな、こういう時間を無理やりにでも作ることが私には必要だなと感じたんです。犬を飼うことで、楽になるんじゃないかなって」

しかし、チームのトレーナーやコーチは大反対。そこで、高橋さんは、犬の本を10冊ほど熟読。合宿に行くときはブリーダーに預け、練習のときはもちろん、食事にも連れてきたりはしない、自由時間を過ごすときの癒やしにするだけだと説明した。

それでも「断固反対!」だった。

「それで、みんなをペットショップに連れていったんです。実際に会わせて触らせるしかないなって。そうしたらその瞬間、“かわいい〜”って。なんだ、簡単だなあって(笑)」

ラッキーとハッピーで「ラッピー」と命名。チームにとっても欠かせない癒やしメンバーとなり、長期のアメリカ合宿にも全員が「連れていくべきでしょう!」と賛成、帯同した。

「みんなの愛情をたっぷり受けてわがままを全く言わず育ちました。私は選手時代、悩みや不安を見せないようにしていたので、一緒にいるだけで心が穏やかになれたし、膝の手術をしたときも、ずっとそばで見守ってくれた。とっても心強かった」

2019年12月でラッピーは13歳に。人間でいえば70歳を超える年齢だ。実は今回の取材の前日、食欲不振に陥り、倒れてしまったという。

「年齢が年齢だけに覚悟はしておかなきゃいけないと理解していても、実際、覚悟も想像もできない。というか、したくないのが本音です」

その後、食欲は復活、ひとまず安心できる状態に。あともう少しだけ一緒に走りたい、と高橋さんは言う。

「ラッピーは、走り回るのが大好きで、私がすっごく足が遅い人だと思ってるんです。お散歩に行くと速く走れって後ろをチラチラ見ながら引っ張って。どうやら彼の身近な人間の中で私が最下位らしいんです(笑)」

高橋尚子 愛犬ラッピー