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あれ、観た?ヤバイよね?今、面白いドキュメンタリー9選 Vol.3

面白いドキュメンタリーは、人に教えたくなる。そして、みんなでワイワイ話したくなる。今盛り上がっているポップな話題作を集めました。自然の神秘、宇宙のロマン、事件の深〜い闇、あの人の秘められた感情……全方位からエキサイティング!

Text: Chihiro Kurimoto, Akio Mitomi, Shigeo Kanno

『オクトパスの神秘 : 海の賢者は語る』

舞台は巨大な海藻が生い茂る南アフリカの「ケルプの森」。長く働き詰めで、カメラを見たくないほど心身が疲れていた映像作家のクレイグ・フォスターは、癒やしを求めて子供時代の思い出の海に潜るようになる。

自然とじかに触れ合ううち、再びカメラを手に取った彼がある日出会ったのは、一匹のタコ。全身に貝殻を纏う奇妙な行動をとる〝彼女〟に好奇心をかき立てられ、取り憑かれたように追いかけ始める。最初は明らかに身構えていた彼女が、クレイグの手に向かって一本の足をニュッと差し出すシーンは必見!

ドキュメンタリー番組『オクトパスの神秘 海の賢者は語る』
タコと人間でも、恋愛は成立するっぽい。

そこからは「私の日常を見せてあげる」といわんばかりに、クレイグにさまざまな姿を見せはじめる彼女。2人は逢瀬を重ね、心を通わせていく……。タコは犬や猫ほどの高い知能を持つというが、彼女が有しているのはどちらかというと“感情”に近いものに思える。

クレイグは、天敵のサメに足を食いちぎられる彼女を見て、心配のあまりますます海へと通いつめる。また、ある時には襲ってきたサメにマウントをとる勇姿に惚れ直す。しかし、タコの寿命はおよそ1年。やがて訪れる、彼女との別れの日、彼はどうする?

アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞した、種族を超えた恋物語。

『大坂なおみ』

アスリートのメンタルヘルスについての問題提起や、人種差別撤廃の意思表示など、テニスプレーヤーとしてだけでなく、ライフスタイルも注目される大坂なおみ。

本作品は、20歳で初の全米オープン優勝を果たし、スーパースターとして一躍有名になった彼女が、葛藤しながら「自分は何者か」という問いに向き合っていく物語だ。グランドスラムで初優勝してから、「試合の勝利が日常業務」になり、優勝以外は負けと見なされる世界。キャスターに「誰に負けたんだっけ?」といじわるな質問をされても、笑顔で答えなくてはならない。

ドキュメンタリー番組『大坂なおみ』
大坂なおみって、こんな表情もするんだ。

日本出身の母と、ハイチ出身の父を持つ彼女が東京五輪で日本代表になることを発表すると「君の黒人性は失われた」と非難される。2019年の全米オープンで15歳の対戦者ココ・ガウフに勝利したとき、「今のメディアの過熱ぶりは彼女の年齢には厳しすぎる」と話したが、それこそが、大坂なおみが誰かにかけてほしかった言葉なのではないか。

20年、全米オープンで2年ぶりの優勝を果たしたところでこのドキュメンタリーは終わるが、その1年後に行われた同大会で彼女は敗退し、無期限休養を宣言した。「何者か」との問いは、今もコートの外で続いているだろう。

『イカロス』

オリンピックやワールドカップなど国を挙げて戦うスポーツ大会には、人々を熱狂させる力がある。愛国心と呼ぶには素朴な感情だが、日本選手が新記録を更新すれば嬉しいし、優勝すれば誇らしいものだ。本作では、スポーツで名声や金銭を獲得したい人間の欲望に加え、強権的な国家にとってのスポーツの意味が描かれる。

ドキュメンタリー番組『イカロス』
自分の体で実験⁉この監督、体張りすぎ!

エスカレートするドーピング問題に、自身の体を犠牲にして切り込んだブライアン・フォーゲル監督は、結果的に、ロシアの国家主導のドーピングプログラムの存在に辿り着いてしまった。実際に、ロシアがソチ・オリンピックで実践していたドーピング方法がかなりエグい!

尿をすり替え、保管室にはバックドアを仕込み、揚げ句、検査室にFSB(ロシア連邦保安庁)が出入りしていたことまで暴露。サスペンス映画さながらの筋書きだ。国家vs.反ドーピング組織の構図だが、どちらが優勢とも言えない。検査をパスする薬を発明する側と発見する側のイタチごっこなので、この対立は簡単には終わらないだろう。

選手の体を蝕むだけでなく政治的利用にも加担してしまうこの問題を解決する方法はあるのか?スポーツを純粋に楽しみたい人は目をつぶりたくなるかもしれないが、ぜひ見届けてほしい。