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精神科医・星野概念らに聞いた、サウナを活用する医師の3つの取り組み

サウナが身体にいいとはよく聞く話だが、実際に医師たちもその効用に注目して動き始めている。イベント、施設、コミュニティ。誰もが気軽に参加できる3つの活動を紹介。

photo: Yuka Ikenoya (Workshop) / text: Asuka Ochi

サウナを活用する3つの取り組み

ワークショップ

サウナに入り、自分から湧いてきた声を口に出してみる

対話を通して精神面での健康を支える「オープンダイアローグ」のアプローチを、サウナと組み合わせた『メンタルヘルススーパー銭湯』。精神科医・星野概念さんがこのワークショップを発案したのは、自身が目指す場づくりと関係がある。

「心が辛くなる大きな要因の一つが孤立感。そうした時にふらりと訪れて誰かの存在を感じられる、地域の寄り合い所のような場があることが、精神疾患の予防になるのではないかと前々から考えていました。それならば、メンタルヘルスの視点をしっかり取り入れたスーパー銭湯のような場ができるといい。その夢がサウナでの企画につながりました」

開催当日は、サウナ体験後に畳を敷いたスペースに集まって、2人、4人と人数を変えながら、段階的に対話を深めていくワークが行われた。

「サウナでじっとしていると、情報に溢れた普段の生活では聞くことが難しい、心の声が聞こえてくる。そうして湧いてきた自分や他人の声にゆっくりと耳を澄まし、丁寧に言葉を交わすうちに、参加者はまったく知らなかった人と執着のないちょっとしたつながりを持てたと思うんです。

対話のテーマ用に、サウナの前後に思い浮かんだ言葉をカードに書いてもらいましたが、サウナ後には明らかに緊張が解けて緩んだ状態になっていた。それもやっぱりサウナの力ですよね。ゆっくりとした時間が流れ、こうなるといいなと思う理想の風景が見られて嬉しかったです」

新施設

日本初、医師が造った本格的なサウナ施設が誕生

もともとサウナーではなかったという整形外科医の吉岡直樹さん。低下した筋力や関節痛の改善を図るリハビリテーションに携わるうちにサウナに興味を持ったという。

「ケガや病気をきっかけに自律神経系に不調を抱えた人の多くが、リハビリへのモチベーションが低く、なかなか症状が改善しない。何か違うアプローチがないかと調べるなかで、フィンランド式サウナで自律神経系を含めた医学的療法が検証されているのを知りました。フィンランド式サウナには、リハビリに効果的なだけでなく、心筋梗塞や認知症の予防になるというエビデンスもあります」

予防医療も念頭に、サウナと酵素風呂を併設した温浴施設を開業。貸し切りにできるサウナ4室のほかに、国内にはほとんどない、身体や視覚に障害のある人も利用できるバリアフリーのサウナを実現している。

「車椅子のまま全身で入れるサウナがあれば、車椅子ユーザーが抱えがちな脚のむくみや痛みなどを改善することができる。バリアフリーにするために車椅子の方の意見を聞いたり、実際にサウナに入ってもらったりして、一から仕組みを考えました」

車椅子から手すりを伝って入れる水風呂、座ったまま浴びられるシャワーのほか、地面の近くに暖かい空気を送れるエストニア製の特別なストーブも完備。看護師によるサポート体制を備えるのも、医師によるサウナならでは。すべての人が平等にととのえる体験への起爆剤となるか。

医学会

より安全にととのうために、あらゆる分野の医師たちがサウナを研究中

2019年に設立された日本サウナ学会。医師や研究者に一般のサウナ好きまで600人ほどが登録する、日本唯一のサウナにまつわる学会だ。これまでなかったサウナの医学的インフラを整えるべく発起人となったのは、がん研究やがん遺伝子診断を行っている加藤容崇さん。

「サウナの効能を医学的側面から明らかにして、予防医療として広めたいというのが発足のきっかけ。サウナを研究し、正しいサウナ浴を啓発するための団体として、眼科や皮膚科、循環器科など、様々な専門家とタイアップして情報を発信しています。ととのう風潮だけがエスカレートすることなく、より安全にととのい、結果、病気の予防効果も得られるものとしてサウナを広められれば」

水風呂には潜らない方がいい、サウナ室でのコンタクトレンズは危険など、各科の医師が研究成果を公開したり、コロナ禍でのガイドラインを作って指導をしたり。サウナの基軸を整える活動は始まったばかりだ。