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自由でクリエイティブな酒・どぶろくの魅力を、業界の若き担い手が語る

最近の日本酒業界で話題を呼ぶ、“クラフトサケ”なる潮流。どぶろく(=米と米麹と水を原料として発酵させただけの酒)をはじめとした既存の酒を、斬新な発想で分解&再構築する若手が増えている。業界の新しき担い手3人に、どぶろくの可能性について聞いてみる。

photo: Shin-ichi Yokoyama(doburoku) / text: Koji Okano

業界の若き担い手〈WAKAZE〉〈木花之醸造所〉〈ぷくぷく醸造〉

「どぶろく」の話の前に、自己紹介をしてもらえませんか?

今井翔也

「日本酒を世界酒に」との思いで、2016年に〈WAKAZE〉を創業、2018年に東京・世⽥⾕区に〈三軒茶屋醸造所〉を設⽴しました。翌年にはフランス・パリに移住して、現在は日本とフランス、2拠点で新しいサケづくりに奔走しています。三軒茶屋では1年間、どぶろくをひたすらつくっていました。パリ郊外の醸造所では、おもに清酒を醸造してきましたが、実は今、こちらで初めて仕込んだどぶろくをボトリングしている最中です。フランスの米を使い、フランボワーズを副原料にしています。この鼎談までに出荷が間に合えば、皆さんにも飲んでほしかったなぁ。

細井洋佑

つくりたてのフレッシュなどぶろくが飲めて買える、浅草〈木花之醸造所〉で代表を務めています。うわっ、その今井くんのどぶろく、一緒に飲み交わしたかったなぁ。昔、秋田で、うちの初代醸造長・岡住修兵(今井さんと同じく、秋田〈新政酒造〉で酒づくりを学んだ人。現在は秋田〈稲とアガベ醸造所〉代表)と3人で、よく飲み明かしたときみたいに。ちなみに〈木花之醸造所〉では桃を副原料にしています。どぶろくとフルーツってすごく相性がいいよね。

オンライン鼎談の様子
創業者鼎談は日本とフランスを繋いでオンラインで実施。右上から時計回りに、〈WAKAZE〉共同創業者の今井翔也さん、〈ぷくぷく醸造〉代表の立川哲之さん、〈木花之醸造所〉代表の細井洋佑さん。

立川哲之

どぶろくの場合、麹の酵素が果物やホップなどに作用して、新しいおいしさを生むんですよね。これは麦のお酒・ビールでは起こり得ない、米の酒ならではの現象です……。あっ、申し遅れましたが、立川です。もともと日本酒づくりをしていましたが、2020年に福島で〈haccoba〉という、クラフトサケブリュワリーを仲間と立ち上げました。2022年に独立して、自前の醸造設備を持たないファントムブルワリー〈ぷくぷく醸造〉として活動しています。実は今、〈木花之醸造所〉で自分のレシピでホップどぶろくを仕込んでいる最中なんです。

細井

できたら、今井くんに送ろうよ、フランボワーズのどぶろくと引き換えに(笑)。

新しいジャンルのお酒クラフトサケとは

そこで、クラフトサケの話です。そもそも、どんなお酒を指すのでしょう?

細井

クラフトサケブリュワリー協会が定める定義に則ると、米を原料としながら、日本酒(清酒)の製造技術をベースに、従来の日本酒では法的に採用できないプロセスを取り入れた、新しいジャンルのお酒のことです。よって、あえて日本酒づくりに必須の醪(もろみ)を搾る工程を行わない「どぶろく」は、クラフトサケの最たるもの。また先ほど出たホップやフランボワーズのように、フルーツやハーブなどの副原料も用います。

立川

“どぶろく”には、どうしても昔の“密造酒”で安いお酒の印象がついて回るけれど、クラフトサケという言葉はそれを払拭してくれるかもしれないですね。ちなみに今年の夏まで醸造責任者を務めていた〈haccoba〉や、細井さん、今井さんは、2022年6月に創設された『クラフトサケブリュワリー協会』のメンバーでもあります。僕はファントムで、立場が変わってしまったのですが(苦笑)。

今井

でも立川くんこそ、情熱をもってクラフトサケづくりに取り組んでいる。前にふたりで意気投合したよね、『20世紀より前の“自由な時代”に負けていられない』って。

立川

1899(明治33)年に国策で自家醸造が禁止されましたが、それ以前に家庭でつくられていたどぶろくって、本当に個性豊かだったという記録が残っているんです。米のみならず、副原料に雑穀に粟や稗、木の実や山ぶどう、唐花草(東洋のホップといわれる)まで使っていました。

細井

昔はもっと、酒づくりが自由だった。法律で定められて米だけで日本酒がつくられていたのは、ここ120年の話だよね。

今井

でもどぶろくって、プロフェッショナルな立場でつくると、難しい。醪を漉さないから、日本酒の原料がすべてグラスに注がれる。清酒みたいに、製造過程で引き算ができないんですよ。

立川

わかります。テクスチャー(舌触り)の仕上がりも考えないといけないから、難度が高いんですよね。

細井

でも液体に米の食感が残るのは、ユニークだよね。フードとドリンクの中間のようなお酒って、世界的にも珍しいから。

今井

フランスの人たちに清酒を見せて、“米が原料”といっても、伝わりにくいんです。でもどぶろくなら、一目瞭然。あの液状は、米以外にあり得ないからです。

細井

それと、今井くんがフランスでリリースするどぶろく、麹の酵母がフランボワーズの風味にどんな変化をもたらすのか、本当に楽しみだね。

今井

目に見えない酵母が、フランボワーズのフレーバーを変える、“隠し包丁”のような効果にご期待ください。

立川

“フランボワーズ”とか“隠し包丁”とか…。今井さんは、本当にオシャレですね(笑)。僕が〈ぷくぷく醸造〉として初めてリリースするホップどぶろくいい仕上がりになりそうです。日本酒で通例の黄麹を一切使わず、焼酎で使われる白麹とビールのホップでつくったどぶろくで、果実感のある爽やかな酸味が特徴です。

細井

〈木花之醸造所〉もこの12月から新しい醸造長が、今までになかったどぶろくづくりに取り組んでいます。これからもみんなで、どぶろく、そしてクラフトサケのシーンを盛り上げていきましょう

今飲める、3人の看板酒

〈WAKAZE〉

〈WAKAZE〉の「三軒茶屋のどぶろく」
〈WAKAZE〉の「三軒茶屋のどぶろく」2,530円(720ml)。山形の食用米つや姫に、爽やかな酸味を生み出す白麹を合わせ、三軒茶屋の地下水で仕込む。

〈木花之醸造所〉

〈木花之醸造所〉のハナグモリ」
〈木花之醸造所〉のフラッグシップ、「ハナグモリ」2,178円(500ml)。米は磨かずに使用。酸味に、米の甘味がほどよく感じられる。飲み心地もスムースだ。

〈ぷくぷく醸造〉

〈ぷくぷく醸造〉の「ホップサケ8hop」
販売中の〈ぷくぷく醸造〉の「ホップサケ8hops」2,310円(500ml)。副原料に8種のホップを使用する。現在〈木花之醸造所〉で製造中の〈ぷくぷく醸造〉初のどぶろくは、12月下旬頃にリリース予定。