そっけないハコみたいな建物の、四角い開口部から中を覗き込んだ瞬間、目の前に美しい世界が立ち上がった。まるでジオラマのように。
「どこの国なのかも、いつの時代なのかもわからないけれど、心が動く光景が広がっている。そういう店を作りたくて、この名前をつけました」
八ヶ岳山麓にある山梨県北杜市。アーティストの工房も多い田園地帯に、〈diorama〉は立っている。2020年にこのギャラリーを始めた若い店主は平尾ダニエル甲斐さん。古材を使ったアートの創作や、空間設計にまつわる活動をしていた20代の頃に、かつて工場だった建物を見つけたのがきっかけだ。
「時間の海を渡ってきたような古い家具や、確かな存在感を放つ金属のオブジェ。さまざまな要素をミックスして自分だけの空間を作る楽しみを、提案したいと思ったんです」
自らリノベーションした空間に並ぶのは、バウハウスの流れを汲む1950年代のアームチェアと、木のウスをくりぬいて作ったとおぼしき古い椅子。山ブドウのつるで編んだ素朴な花器もあれば、著名作家のオブジェもある。70年代のデンマーク製チェストが数万円、室町時代の侘びた山茶碗が数千円で買えるなど、良心的な価格もうれしい。
現代のものを選ぶ基準は未来の骨董になり得る佇まい
「ヴィンテージ家具や古道具は地方のコレクターから仕入れることが多く、全国どこへでも足を運びます」
そう話す平尾さんは、ステンレスのモダンなチェアなどのオリジナル家具やアート制作も手がけている。ギャラリーには稀少な古木や金属板を保管した資材置き場と工房が併設され、これらを使って住宅や店舗の内装設計をすることもあるそうだ。
「新たに制作するアートや家具のほか、現代作家の器やプロダクトもありますが、どれも、使ううちに味わいを増す素材と普遍的な形を備えている。つまり、未来のヴィンテージになり得るものですね」
とりわけ魅力的なのは、古い寺の屋根に使われていた銅板を利用したパーティションや、昔の蔵の扉を天板にしたテーブル。「とても美しいのに、使い道がなくて放置されていた材」で作った“見立て”の家具だ。
「生と死が均等に保たれているものに、抗(あらが)いがたい美しさを感じます。例えば、割れてしまったのを誰かが修復した信楽焼(しがらきやき)の花器や、朽ちていく途中のような錆をまとったオブジェ。ほかの何にも似ていない佇まいは、日常感があるものではないけれど、日常を美しく彩ると思うんです」
SELLING POINTS
● 地方のコレクターから買い付ける古家具は良心的な価格。
● 美しく朽ちてゆくであろう現代の器やアートを厳選。
● 工房併設。店主が制作した家具やオブジェも並ぶ。