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未知の国の生き物や自然の美しさを伝える、パリの標本商〈デロール〉

未知の国の生き物や自然の美しさを伝える標本商として、19世紀から続くパリの〈デロール〉。そこには、大航海時代から続く、大いなる生物への憧れが詰まっていた。

Photo: Shoichi Kajino / Text: Shogo Kawabata

パリのセーヌ川に面したオルセー美術館の裏手に延びるバック通り沿いに佇む、1831年創業の標本商〈デロール〉。昆虫から多くのインスピレーションを得ていた画家のサルバドール・ダリも通ったという歴史ある店の間口は決して広くはないが、中に入り階段を上ると、いくつもの部屋(サロン)を横につなげたような長い造り。

フロアには大型哺乳類の剥製や鉱物標本やらが所狭しと並んでおり、まるで博物館のようだ。実際、店内では子供たちが目を輝かせながら標本に見入っており、街の小さな博物館として機能している側面もある。
もちろん博物館と違い、展示されているものはすべて購入可能。昆虫標本はそんな店の一番奥の部屋に集まっており、ズラリと並んだキャビネットには数百もの標本箱が収められていた。

実は〈デロール〉は2008年に火災に遭っており、長年積み重ねてきた貴重な剥製や標本の多くを失っている。特に、火元が昆虫標本のキャビネットだったため、昆虫関連のコレクションは、ほぼすべてが焼失してしまった。デロールの火災には多くの研究者や収集家も落胆し、標本の寄贈も相次いだという。

また、火災の跡から見つかった焼け残りからアート作品が作られ、それらはクリスティーズのオークションにかけられて再建の資金となった。かのエルメスも支援のための特別なスカーフを販売するなど、各界からこぞって救いの手が差し伸べられたことは、〈デロール〉がこの街にとってなくてはならない存在であることを物語っている。

大航海時代以来、こうした自然の作り出す美しさに、好奇心を掻き立てられ、驚き、興奮することは、ヨーロッパの人たちにとって、大きな楽しみの一つなのだ。

パリの標本商〈デロール〉店内
標本キャビネットのほか、書籍や採集用品が並ぶ、昆虫フロア。