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〈HAKUÏ〉小野塚秋良とワークウェア「ワークウェアに見た、ファッションとしての美しさ」

メンズファッションを語るうえで避けて通れない服。方向性の違う5人のデザイナーに、自分たちが愛してやまないワークウェアへの思いを語ってもらった。なぜ魅了されるのですか?

Photo: Yasuyuki Takaki / Text: Ado Ishino

労働者階級の人たちがさ、朝から強い酒をガンガン飲みながらゴロワーズをふかしてコーヒーを飲んでるカフェがいくつもあったんだ。店内は煙でモクモクでさ。僕らは朝まで仕事してフラフラになりながらそういうところに行っちゃあ安い食べ物を頼んだりして。楽しかったね。

そんな時に周りにいた連中が着てたのが、今僕が着てるようなワークウェアだったの。なんて綺麗なんだって思ったね。そうこうしてるうちにフレンチワークみたいな服を作りたくなって始めたのが〈ZUCCa TRAVAIL〉。フランスのボルドーにあった工場を探し当てて、そこで全部生産してたんだ。すごく面白かったね。

この取り組みがフランスの産業発展への貢献だって認めてもらって、フランス・プレタポルテ協会から「1er TROPHÉE ELAN 2004」っていう賞をもらったの。〈HAKUÏ〉を始めてもう30年になるけど、何年かはZUCCaと並行してやってたんだよ。

皆さん知らないかもだけど、ユニフォーム業界は、売り方も作り方も、特別な進化を遂げてるんだよ。一般的なアパレルでは、いかにストックを残さないで売り切るかが使命でしょ?でもユニフォームは逆。いつお客さんが来ても買えるように、絶対に品切れさせない商売だから。

作り方も、まず素材を選ぶ。火に強いか、汚れは落ちやすいか、色移りはしないか、洗濯に耐えられるかってね。ファッション業界もサステイナブルが叫ばれているけど、何でもかんでも作りすぎだよね。

その点、〈HAKUÏ〉は年に1度、新作を10型くらいしか作らないんだから(笑)。これまでリリースされたアイテムも、カタログに載っているものなら今でも在庫があって手に入れることができる。そりゃ一般アパレルからすれば品数は少ないよ。でもコレクション用に奇抜なデザインのアイテムを作って在庫を余らせることもないから。

ファッションブランド〈ズッカ〉デザイナー小野塚秋良 事務所の本棚
ワークとミリタリー関連の棚。「ユニフォームって惚れ惚れするよね」

面白いことに、ネットを通じて世界中のレストランやホテル、カフェから引き合いがあるんだよ。すごい時代だよね。〈HAKUÏ〉という会社は、ストックする倉庫や配送センターまでを自社で賄って無駄のない仕組みを作ってる。そこまで考えるのがサービスだよね。

ユニフォームは、非常に丁寧で無駄のないもの作りをしているし、実に健康的なビジネスだと思う。ファッション業界と比べると真逆のようだけど、ことデザインに関しては、やってることは一緒なんだ。働く服だってファッションと同じだよ。毎回が勝負。加減なんて絶対しない。これを着て働くのはみんな若い人たちだからね。すごくかっこよく、楽しくしてあげるのが僕の役割だから。

ユニフォームってさ、しっかりと決まり事がある中で作るんだけど、それ以外は気にせずに自由にデザインしてる。機能性はもちろん立ち姿の美しさまできっちり仕上げるよ。だって僕もう46年もやってるんだよ。勘弁してよ(笑)。職人だけど。デザイナーじゃない。デザイナーってもっとすごい人のことを言うんだと思うよ。僕は洋服の職人。作るのが大好きなんだ。

ファッションデザイナー 小野塚秋良
小野塚さんのアトリエで。天井まである書棚には、稀少な写真集や作品集、思い出の品々が並ぶ。

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