Wear

Wear

着る

〈A.P.C.〉ジャン・トゥイトゥとワークウェア「“機能”ではなく“必要性”が服を美しくする」

ワークウェアに、なぜ魅了されるのですか?ワークウェアやミリタリーウェアをコンテンポラリーに昇華してきた〈A.P.C.〉ファウンダー、ジャン・トゥイトゥに話を聞いた。

Photo&Text: Shoichi Kajino

私たちは、ワークウェアからインスパイアを受けてはいますが、ワークウェアを作っているわけではありません。ワークウェアに惹かれるのは、それが機能性に基づいているからです。

その機能性に美しさを加えることを考えています。機能的というのは必ずしも美しいとは限りませんから、素材やプロポーションで美を足すことが私の仕事なのです。機能性を求める時、ディテールのなかにリアリティが生まれます。

例えばワークウェアで、床にひざまずくことが多い仕事のために、膝をプロテクトするようなものを作りますが、そのプロポーションが完璧なものを作ろうとするわけです。失敗もあるけど、とても美しく仕上がることもある。そこはクリエイションのミステリーで、往々にして美しい服が出来上がるわけです。

それは、必要性に対応しているから。すなわち、そこに必要でないものは存在しないということ。美とは限定した必要性から生まれるのかもしれません。」

ワークウェアとミリタリーウェアが並列に語られていますが、ワークと戦争を一緒にすることはできません。軍隊は「仕事(ワーク)」に属するものではなく、戦争に属するものです。もし戦争が仕事の一部というのであれば、哲学的なディスカッションをしなければなりませんね。

私の場合は、ワークウェアやミリタリーも含め、過去の時代の服や自分が若い頃に着ていた服など、いろいろなものからインスピレーションをもらうので、私の作る服には、それらの魅力が混ざっています。実際にデザインすることには難しさはありません。難しいのはむしろビジネスとしてオーガナイズすることです。

アーティスティックなクリエイションは簡単なものとは言いませんが、自然なもので特に努力を必要とするものではないのです。

フランスではファッションのことを“応用的なアート”と呼びます。科学に基礎科学と応用科学があるように、アートにも基礎的なアートである絵画や音楽などに対し、応用的なアートとして例えばファッションがあります。

ファッションは、絵画や音楽などと違って、生みの難しさはありません。洋服へと応用されたアートは、さほど難しくはないのです。本当に難しいのは、それを35年続けサバイバルすることでした。

ファッションは、単純にプロダクト自体だけではない、そこにセクシュアルともいえる関係性が付随します。ファッションはただ商品を買うということではなく、そこに欲望を生み出すものです。たしかに洋服のフォルムは機能に追従して生まれますが、その上にマジック、ミステリーが必要です。

それはイメージであったり、特別な色であったりディテールであったり。私たちの仕事は、マジックが生まれるようなコンディションを準備することです。飛行機が着陸できる滑走路を準備するように。そしてマジックが降りてこられるようにして待つのです。

それは、理にかなったものではなく、A.P.C.もまた理にかなったブランドではありません。奇跡が訪れるのを待っているのです。ファッションにおいてはその作用なしに成功はありません。100年に12人いるかいないかの偉大な天才を除いてはね。

ファッションブランド〈アーペーセー〉デザイナー ジャン・トゥイトゥ
パレ・ロワイヤルで開催されたアーカイブ展の会場で取材に応じてくれたジャン・トゥイトゥ氏。