『喫茶アネモネ』柘植文/著
推薦者:ブルボン小林
変なふるまいを少しだけ「侮ってあげる」優しさ。
お年寄りにも読める漫画ならば、共通の話題になる。その意味でも、今や「高齢者のメディア」である新聞連載で人気の今作はうってつけだ。
漫画内もどこか年寄り成分高め。アネモネのマスターのヨボヨボを愛でる漫画といっていい。本人、年寄り扱いを嫌がってはいるものの終始、挙動不審で、小声で、震えがち。
フィクションで描かれる「老人」というと「敬ったり」「介護したり」あるいは「老害」といった要素ばかりになるが、生きているんだから、そればかりではない「日常」もあるはずだ。彼らの変なふるまいをちゃんとおちょくって、少しだけ「侮ってあげる」優しさがここにはある。
『R先生のおやつ』雲田はるこ/著 福田里香/レシピ
推薦者:SYO
白髪紳士が作る美しいおやつにうっとり。
『昭和元禄落語心中』などで知られる雲田先生。彼女の魅力は、老若男女問わず人間を艶っぽく描けるところかと思います。そんな雲田先生が、エレガントな初老のお菓子研究家・R先生と血気盛んで大食漢なその助手・Kくんのコンビを描いたら、魅力的になるのは必定。
しかもテーマはおやつ。タルトにパンケーキ、スモア(マシュマロとチョコレートをクラッカーで挟んだもの)に杏仁豆腐におしるこに……。世界各地の絶品おやつが美しいタッチで描かれます。特にR先生の立ち居振る舞いやワードのセンスがお洒落で、「こんなふうに年を重ねたい!」と思わされます。マンガに加え、R先生が書いた(体の)レシピエッセイまで付いているというサービス設計。推せます。
『メタモルフォーゼの縁側』鶴谷香央理/著
推薦者:トミヤマユキコ
好きなものさえあれば、大丈夫!
好きなものが共通していれば、年の差なんて関係ない。そのことをストレートに描いたマンガです。女子高生のうららと書道教室を営む雪の年齢差は58歳で、2人の好きなものはBL。
お年寄りのことを理解しようと思った時に、歴史を振り返らねばならないかというと必ずしもそんなことはありません。今その人が好きなもの、興味があることで盛り上がって、その話でキャッキャしたっていいわけで。この作品の場合はBLが共通項ですが、どんなものでもいいんですよね。
ちょっとした孤独を抱えた2人が書店で出会い、好きなものを介して友情を育んでいく。年齢も関係なければ上下もない、お互いをリスペクトしつつ、対等な関係を築いているのが美しいなと思います。
『天才 柳沢教授の生活』山下和美/著
推薦者:川村豪
魅力的なお年寄りがたくさん登場します!
柳沢教授をはじめ、年をとったらこんなふうになりたい!と思わせてくれる魅力的なお年寄りがたくさん登場します。どんな相手に対しても「わからない」ことは「わからない」と言い、知ろうとするために真っすぐに問いを繰り返す柳沢教授の生き方は、何度読み返しても新しい発見があり、特に14巻に収録の「本のささやき」が好きです。
本にとって幸せなこと、本は生きているというくだりは本屋という仕事をするうえで大事な拠りどころになっています。学ぶことが大好きな柳沢教授の姿を見ていると、日常の至るところに学ぶためのきっかけはあるのだと感じられる名作マンガ。『不思議な少年』や『ランド』の連載を挟み未完結の作品なので、続刊に期待しています。