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頼りになるマンガ Vol.15:もっと日本のことを知りたい。

人は悩みを抱えたり困難に遭遇したりすると、藁にすがったり猫の手を借りたり、思いも寄らぬ行動に出るらしい。すがられる藁も動員される猫もいい迷惑だろうに。それならいっそ、マンガに頼ってみませんか。コンシェルジュが厳選した「頼りになるマンガ」!

Illustration: Ken Hamaguchi / Text&Edit: Keiko Kamijo, Akio Mitomi, Saki Miyahara, Kaz Yuzawa

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もっと日本のことを知りたい。

『いつか中華屋でチャーハンを』増田薫/著

推薦者:岩下朋世

特別ではない食事から見えてくる歴史。

日本の歴史や社会を取り上げたマンガは無数にあるわけだが、そうしたマンガだけでは見えてこないものもある。そんな見過ごされがちな現代日本の風景に気づかせてくれるのがこの作品だ。

中華料理屋でラーメンやチャーハンといった定番ではないちょっと気になるメニューを頼む。それだけといえばそれだけのマンガにも思える。しかし、作者の好奇心はそんなメニューがどうやって生まれたのか、どんなふうに定着したのかという背景の解明へと向かっていく。

すると、やたら大量のあんがかかった広島の中華丼から戦後の生活史が見えてきたりするのだ。作者の食欲と素朴な探究心に導かれて、大衆中華料理を日本の食文化として再発見できる。とぼけた絵柄も楽しい。

『健康で文化的な最低限度の生活』柏木ハルコ/著

推薦者:ブルボン小林

現代日本の貧困問題が遠慮なく描かれる。

現代日本の貧困問題、特に生活保護を受ける、あるいは受けるべきなのに受けようとしない家庭の悲惨な現場が遠慮なく描かれる。

作者は田舎の因習、闘牛など一作ごとにまるで異なる題材を漫画化し続けている。その多くが、人の興味のど真ん中とはいえないものだ。リサーチでテーマを決めているのではなく、作者が本当に興味を持ったことにだけ肉薄している。その肉薄ぶりが迫力を生み、興味の薄い読者をも引き込む。

生活保護という制度は、コロナの中でいきなり身近に意識されるものになったはず。重いテーマだが、主人公の描線と目力にこの作者特有の活力が宿り、漫画ゆえの救いがある。

『角栄に花束を』大和田秀樹/著

推薦者:川村豪

戦後日本の激動の歴史を辿るなら、この作品。

田中角栄という名前は知っていても、ロッキード事件以外に何をした人物なのか知らない人にこそ、読んでもらいたい作品。

政治家の伝記マンガはどうしても真面目に描かれがちですが、その部分を面白おかしく、決める部分はきっちり格好よく決めるところが本作の真骨頂。ギャグマンガに見えてしまいがちですが、高度経済成長を成し遂げた総理大臣の人物像がしっかり描かれている。

この作品を通して、戦後日本の激動の歴史を辿ってもらいたいです。「戦後史は本当に濃いです。幕末、戦国に匹敵する」という作者による内閣総理大臣・池田勇人を描いた前作『疾風の勇人 所得倍増伝説!』にも、若き日の田中角栄が登場するので併せてぜひ読んでください。

『バクちゃん』増村十七/著

推薦者:トミヤマユキコ

移民から見た客観的な視点で日本を見る。

主人公のバクちゃんがめちゃくちゃかわいくて目が離せない。守ってあげたくなるキャラです。話としては、異星から東京にやってきたバクの子がどうやって暮らしていくかを描いているんですが、最初の方に出てくる「永住権かくとくロードマップ」がすさまじくて。

ものすごく整理された図なんですが、それでもややこしくて複雑。日本で暮らす外国の方がたくさんいて何かと大変だということは知識としては知っていたけれど、ここまで大変なの!と驚きましたし、決して住みやすい国ではないのだなと反省もしました。

それでもバクちゃんは主体的に日本にいようとしていて、どんなことにも前向きに関わろうとしています。日本を別視点から見つめ直せる作品です。

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