『刷ったもんだ!』染谷みのる/著
推薦者:近西良昌
新社会人の不安や葛藤、そして成長を描く物語。
主人公が印刷会社に就職したところからストーリーが始まります。仕事の仕方がわからない時、上司にどうやって聞けばいいのか、周りにどうやって助けを求めたらいいのかも描かれているので、新社会人は読んでおいて損はないと思います。
実際に働き始めると、想像とは違う現実にぶつかることもしばしば。でもそこであきらめて腐ってしまうのか、それでも前向きに進めるのかが今後の分かれ道ではないでしょうか。この主人公のように真っすぐに向き合えたら、きっと楽しく仕事ができると思います。
不安ばかりだと思いますが、背中を押してくれる一冊になってくれるのでは。印刷業界、出版業界の裏事情も満載なので、近い業種の人にはぜひご一読いただきたいです。
『吉祥寺だけが住みたい街ですか』マキヒロチ/著
推薦者:岩下朋世
居住意欲を刺激する、知られざる街の魅力。
「住みたい街」のトップとして知られる吉祥寺。そこに新たな住処を求めて不動産屋を訪ねてみると、やたらキャラの立った双子姉妹につかまって、あれよという間もなく全然違う街に連れていかれてしまう。
でも、無理やり連れてこられたこの街、けっこう住みたい気がしてきたぞ……というパターンで、毎回さまざまな東京の街が紹介されていく。引っ越し先について考えるなら、見るべきは住む物件の良し悪しだけでない。暮らす街の顔つきを観察することが大事なのだと改めて気づかせてくれるマンガだ。
公共交通機関のアクセスといった生活に根差した実際的なチェック項目がさらりと示されるのもありがたい。もちろん街歩きのガイドとしても有効だ。
『スキップとローファー』高松美咲/著
推薦者:トミヤマユキコ
完璧じゃなくてもチャーミングな主人公を見習おう。
高校1年生の春からスタートする学園ラブコメという、ある意味ベタなフォーマットに味わい深い人間ドラマが乗ってくる。このバランスが魅力です。
主人公の岩倉美津未は過疎の田舎町から単身上京してきた子で、秀才ではあるものの、真面目が暴走して空回りするタイプ。そのくせどこかすっとぼけてもいて。周囲には、人気者の男子や、クールな美人、オタクの子、要領のいい子がいるんですが、みんな悩みを抱えています。でも、美津未お得意の空回りで自然と心が解けていく。
欠点に思えるような性格が、みんなを癒やしているわけです。新生活って気後れしたり失敗したりの連続ですけど、その一つ一つが見過ごされずしっかりと描かれているのも好きなところですね。
『まんが道』藤子不二雄Ⓐ/著
推薦者:ブルボン小林
漫画家を目指さない者の心にも長く寄り添う。
トミヤマさん絶対に『スキップとローファー』挙げると思ってた!それでぜひ、併せてこれを読んでもらいたい。時代もムードも違うがどちらも「北陸から上京する若者」の話だ。
北陸新幹線が開通するまで北陸の石川富山あたりは東京と直線で結ばれていない感じ(九州や北海道だと空路も充実している)で、ゆえに上京する若者の希望や、少しの困難では引き返さないぞと奮い立つ気持ちが新旧の北陸出身主人公に通底してみえる。
本作の主人公は漫画家として頑張る前、富山の新聞社に就職する。話数を割いて丁寧に描かれる初出勤やボーナスが愛しい。漫画家を目指すわけではない者の心にも長く寄り添ってくれる作品だ。