相米慎二監督作『お引越し』が、公開30年を記念してデジタルリマスター化された。家庭不和に翻弄される主人公、レンコを演じたのは当時11歳だった田畑智子さん。
中井貴一と桜田淳子が演じる別居中の夫婦、そして長女の心の機微を描く。23年8月に開催された第80回ヴェネチア国際映画祭・クラシック部門で、最優秀復元映画賞を受賞。
「この作品が私のデビュー作です。久しぶりにスクリーンで拝見しましたが、現在は結婚して子供がいるので“すごく頑張って演技してる!”と、自分の演技ながら、思わず親目線で観てしまい、気づいたら涙が溢れていました」
そんな田畑さんにとっての沁みる映画は『魔女の宅急便』だという。
「大人になってから観ても、そのたびに感動して泣いてしまう。なぜそんなに惹かれるのか、理由を考えてみたんですが、主人公のキキと自分の子供の時の姿が重なっているからかもしれません。彼女は10歳で魔女になることを決意し、13歳で独り立ちします。修業と同時に仕事もしなければならない。なかなかうまくいかないけど、一生懸命頑張る。そんなひたむきな姿が、11歳の時に経験した『お引越し』の撮影現場での経験と重なるんです。だから、キキが悩んでいるシーンを観ると、今でもキュッと心が痛くなりますね」

角野栄子による同名の児童文学を、宮崎駿がアニメ映画化。「公開当時から何度も観ているため、全部セリフを覚えています。最近もセリフを口走ってしまい、子供から“言わないで!”と叱られました」(田畑)©1989 Eiko Kadono/Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, N
魔女と俳優。特殊な立場が共通しているからこそ、余計に心に沁みるのかもしれない。
「スランプに陥ったキキは、愛猫・ジジの言葉が聞こえなくなります。観る人によって意見はさまざまですが、私個人としては、彼女が、まだ魔法を習得し切れてないからだと考えています。まだ不完全な状態というか。その不安な気持ち、少しわかるんです。撮影現場でカットがかかった後、相米監督から“お前、それでいいのか?”という目で見られているんじゃないかって(笑)。だから、今でも120%で演じるし、カットがかかっても“これでいいのかな?”と悩んでいます」
田畑智子さんが思う、「沁みる」の正体
境遇が重なった時の、他人事(ひとごと)ではない感動。
