壁一枚隔てた対話が沁みる
刑務所の面会などで映画に登場する、透明の壁。それは、相手がすぐ近くに見えているからこそ、2人が全然違う場所にいることを如実に伝える場面装置でもある。その、近くて遠い壁一枚が、数々の名シーンを生んできたのだ。
『パリ、テキサス』
透明な壁が作る、見えるが触れられない距離
数年前に妻子を捨てたトラヴィスが記憶を失った状態で発見される。幼い息子と再会し、今は離れて暮らす妻の元へ向かう彼。妻が働くある施設を訪れた彼は、マジックミラー越しに久しぶりに対面する。近くにいるのに、触れることは許さないこの“壁”は、一家のその後を暗示するかのように静かに立ちはだかる。
#味わい深い #胸が痛い
『サッド ヴァケイション』
面会室という特別な場所で語られる真実
自分と父を捨てた母と再会した健次は、ある復讐計画を企てる。殺人に手を染め、刑務所に収監される結果になったものの、その望みを果たした健次。しかし彼は面会室を訪れた母から、人生を揺るがす衝撃的な告白を聞く。ガラスの壁越しに悠然と微笑む母。「勝てない」と悟った健次の何ともいえない表情が忘れがたい。
#味わい深い #考えさせられる
『若き仕立屋の恋』
彼女の体を誰よりも知る手。でも、触れたことはない
仕立屋で見習いとして働くチャンは、ある日美しい高級娼婦ホアに出会い魅了される。彼が彼女に触れるのは、布を隔てた採寸の時間だけ。彼は粛々と、工房で一人ホアの体を思い出しながら、彼女がほかの男に見せるためのドレスを作り続ける。壁一枚で表現されてきた隔たりは、布一枚でも表現されることがある。
#味わい深い #胸が痛い
始まってもいなかった恋の終わりが沁みる
恋に落ちた2人が結ばれるまでの感動をラブストーリーは巧みに描く。しかし、勘違いの恋、あるいは片思いのまま思わる恋というのも、何ともいえない儚(はかな)さ、切なさがあり、大人の味がする。世の中、叶わぬ恋の方が多いのだから。
『ローマの休日』
身分が違う2人だから、淡い恋は永遠に
とある王室のアン王女と記者のジョーは、互いに素性を明かさずにひとときのローマ観光を楽しんだ。その後、記者会見で彼の姿を見つけたアン王女は、楽しかったのは「断然ローマ」と微笑む。結ばれるはずのない2人だからこそ、思い出は永遠に美しく。ジョーは宮殿に一人残り、「これでよかったのだ」と余韻に浸る。
#味わい深い #キュンとする
『パスト ライブス 再会』
何も起こらない束の間の恋人ごっこが歯がゆい
韓国で仲の良い幼馴染みだったノラとヘソンは、ノラが家族と海外に引っ越したことで離れ離れに。ヘソンがノラに会うべく、アメリカを訪れたのはその24年後のこと。既に夫がいるのを知りつつ何かを期待しているヘソンと、思わせぶりなそぶりを見せるノラ。何も起こらず終わる束の間の恋人ごっこが、歯がゆくも美しい。
#共感できる #味わい深い
いるのに、いない悲しみが沁みる
既に亡くなってしまった人たちの魂は、まだここに。残された人たちの切なる願いを、映画はゴーストというもので表現してきた。しかし、この世を去った者が、生きている人たちとコミュニケーションをとることは容易ではない。
『ゴースト/ニューヨークの幻』
不器用なゴーストが叫ぶ、彼なりの「愛してる」
銀行員のサムはある日突然死んでしまう。残された恋人のモリーを守るために幽霊としてこの世に残るサムだが、霊媒師に仲介を求めてもその存在をモリーに信じてもらえない。最後の望みを託し、サムは「同じく!」と霊媒師を介して叫ぶ。これは2人しか知らない、モリーの「愛してる」に対するサムのお決まりの返事だった。
#キュンとする #悲しい
『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』
たとえ気づいてもらえなくても、愛する妻を近くで見守る
妻のM(ルーニー・マーラ)を残したまま、突然この世を去った夫のC(ケイシー・アフレック)。死んだはずの彼だが、白いシーツを被った幽霊となって病院から自宅まで歩いて戻ってくる。目の前にいるにもかかわらず、Mが彼の存在に気づくことはない。ただじっと、静かに妻を見守り続けることしかできないのであった。
#悲しい #不思議な気持ち