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ダンスの街・横浜から世界へ。ダンスハウス〈Dance Base Yokohama〉の挑戦とは

未来の世界的ダンサーがここから生まれるかも!?2020年、横浜の馬車道に誕生した〈Dance Base Yokohama〉は、プロのダンサーを目指す若手への支援システムとレジデンス機能を併せ持つ、日本では珍しい“ダンスハウス”。人気ミュージシャンや劇作家も参加する、いま話題の施設を訪ねてみた。

photo: Masanori Kaneshita / text: Masae Wako

世界的クリエイターも10代の若手も関わる、創作の場

〈Dance Base Yokohama〉入り口。ガラスで囲まれたアクティングエリアは見学自由。周囲には自然光の入る回廊も。

「横浜はダンスの街。1980年代から数々の芸術祭や見本市などの名公演が市内の劇場で行われ、日本最大級のダンスフェスティバル“Dance Dance Dance”も、この街を舞台に続いているんですよ」

そう語るのは唐津絵理さん。2020年にオープンした〈Dance Bace Yokohama〉のアーティスティックディレクターだ。「DaBY(デイビー)」の愛称で呼ばれるこの施設は、開館している間なら、だれでもいつでも見学自由。

さっそくアクティングエリアと呼ばれるスタジオをのぞいてみると、若いダンサーたちがのびのびと踊ってる。中央にいるのは小㞍健太。オランダのNDTやスウェーデン王立バレエ団など世界的舞台で活躍し、フィギュアスケート日本代表の表現指導も手がけるダンサー、振付家だ。

「DaBYの大きな特徴は、レジデンス(一定の期間にわたってダンスを創作する場所)機能をもつ“ダンスハウス”であること。プロのクリエイターによる作品づくりと、そのトライアウト公演が活動の中心です」と唐津さん。レジデンスアーティストとして創作に携わるのは、小㞍のほか、岩渕貞太やハラサオリ、鈴木竜など国際的に活躍するダンサーたち。さらにゲストアーティストとして、ダンサーの安藤洋子や酒井はな、中村恩恵、劇作家の岡田利規やミュージシャンの環ROY、四家卯大の名も!

アーティストのプロフェッショナルな活動をサポート

「もうひとつの大きな活動の軸が、プロダンサーを目指す若い人のスタートアップを応援することです」と唐津さん。実は、この日アクティングエリアで踊っていたのは、今年3月のオーディションに受かったばかりの登録ダンサーたち。ほぼ全員が10代後半から20代の若手である。

「ドイツやフランスなどヨーロッパの国では、国全体で芸術を支援する基盤があり、プロのダンサーとしての自立を助ける育成機関やレジデンスがある。若い人が安心してキャリアを築けるんですね。ところが日本では、ダンスを仕事にすること、特にフリーランスで活動することがとても難しい。ひたすらオーディションを受け続けるしかなく、合格してもなかなか十分な収入にはつながりません。日本はバレエ教室が世界の中でも多い国のひとつなのに、教室を出た後のキャリアを築くすべがないわけです。この現状を打破し、キャリアやお金がなくても学んで活動できる環境をダンスの街・横浜につくりたい。そのための挑戦がDaBYなんです」

目指したのは、創作の場である「レジデンス」と発表の場である「劇場」の中間のような場所づくり。年間を通してプロのレッスンやワークショップを無料で受けられる登録ダンサーたちには、レジデンスアーティストらの活動に参加するチャンスだってある。

「すでに次回公演への出演が決まっているダンサーもいるんですよ」。未来の世界的ダンサーがここから生まれるかも!

音楽、美術から法律まで、ボーダーレスな学びが必要

「全身の力を抜いてデレーっとしたら、さらに頑張って頑張って、あと5%くらい力を抜くつもりで……」と、レッスンを見学した後は、アクティングエリアの周りを囲む回廊へ。ダンスに関する資料のほか、ポップカルチャーから歴史まで、さまざまなジャンルの書籍が並び、自由に閲覧できるようになっている。

「DaBYではダンスの技術を教えるだけでなく、美術や音楽、歴史や哲学、法律などのレクチャーも行っています。ダンスは総合芸術。岡田利規さんや環ROYさんなどジャンルを問わず関わっていただいているのは、あらゆる分野がパフォーミングアーツの重要な要素のひとつだからです」と唐津さん。さらに、自立したプロのダンサーとして活動していくには社会性が必要とも。

「プロのダンスアーティストは、“自分が楽しい”とか“上手に踊れる”という次元を超えて、なぜ踊るのか、人に見せることで社会に対してどういう存在になれるのかを考える必要があると思っています。振付をする場合も同じです。自分の中からあふれ出る切実な何かを表象するときに、そこに社会性が備わっていないと、非常にチープで独りよがりな表現になってしまう。私たちはこの点も含めてダンサーと共に考えていきたい。それは鑑賞する人たちへの責任でもあるんです」

ダンスはすべての人にフェアでオープンな芸術

「人間の身体には、言葉に置き換えられる以前の感覚や、社会のわずかな変化をもキャッチする能力が備わっています。訓練されたダンサーの身体は、それらをより敏感に受け止め、身体表現として送り出す。鑑賞者もそれを見ることで、今、社会の中で起こっていることを無意識に受け止めるんです」

それが興奮や喜びや言葉にならない気持ちのざわめきにつながり「細胞が活性化する」のだと唐津さんは言う。だからこそ、できる限り間口を拡げたい。レジデンスアーティストやゲストアーティストが関わるダンス公演はもちろん、海外アーティストの来日公演を主催することもあるし、アクティングエリアを見学自由にしたのもそのためだ。

「舞台芸術というと、一般的には完成された作品を鑑賞するだけですよね。でも、それがどうつくられているのかに興味がある人も多いと思うんです。DaBYでは、作品をつくる過程もオープンにすることで、もっともっと多くの人にダンスを近しく感じてもらえたらと考えています。なぜなら、ダンスは誰にとってもフェアな芸術だから。踊る人の身体はひとつ。見る人の身体もひとつ。楽器も絵具もなく、言葉も必要としない。みんな同じ条件で、自分の身体だけをもって向かい合えるフラットな表現なんです」

Dance Bace Yokohama

住所:神奈川県横浜市中区北仲通5-57-2 KITANAKA BRICK&WHITE BRICK North 3階
営:10時~18時
休:日曜・月曜(月曜が祝日の場合は開館。翌日休館)
オープン時は見学可能。公演やイベントの詳細はHPで。