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横浜のディープエリアで、7inchヨーロッパジャズを鳴らす〈シェルターピープル〉

横浜でもとりわけディープなエリアにジャズとコーヒーの店〈シェルターピープル〉がある。選曲は、ヨーロッパの7インチ盤が中心というストイックさ。店主の趣味と、もてなしが濃密に感じられる空間で、ヨーロッパジャズの魅力を探った。

photo: Jun Nakagawa / text: BRUTUS

ミニマムな空間で、ヨーロッパジャズを楽しむ

風俗店やクラブなどが軒を連ねる横浜でもとりわけディープな繁華街、福富町エリア。

昭和レトロな雑居ビルの地下1階へ下りると、マニアックなヨーロッパジャズが聴こえてくる。スナックが並ぶ通路を抜けた一番奥、そこに〈シェルターピープル〉がある。

「特にこの場所にこだわった理由はないんです。ただ、僕自身が登山やキャンプが好きで、山小屋の空間が好きだった。ここみたいな繁華街の中に、山小屋のような空間がつくれたら、それはそれで面白いかなって」

そう話すのは、店主の山田達也さん。店内は3畳ほどの広さで、柔らかい照明が照らす。雑居ビルの中にあるとは思えない落ち着いた空間だ。コーヒーとスイーツ、そして日本酒を楽しみながら、レコードで選曲されるジャズに耳を傾ける。

横浜・シェルターピープル 山田さん
内装は、全て山田さんがセルフビルド。

「うちに置いているのは、基本的には7インチ盤のジャズです。店内でかけるのは1950年代から1960年代の“ヨーロッパ”のジャズがほとんど。元々プレス数が少ない上に、あまり注目されないジャンルなので再発されず、7インチでしか聴けない曲が多いんです。僕自身、ジャズといえばアメリカでした。

10年ほど前にヨーロッパジャズの面白さに気が付いたんです。フランスにはシャンソンを背景に音楽で踊る独自のカルチャーが培われていることがわかるし、スウェーデンは1940年代からスタン・ゲッツをはじめアメリカ人とのセッションを経験していたからジャズのスタイルもアメリカン、とお国柄が出るのが面白い」

以前は、ほとんど店舗をめぐってレコード探しをしていたが、最近はもっぱら〈Discogs〉で海外のレコード店の在庫をチェックし続けている。

「ネットでレコード屋をディグしている感覚です。ただ、ヨーロッパものは高値が付いているものも多く、なかなか厳しい側面もある。一方で、たまに〈ディスクユニオン〉に行くと、“こんな値段で大丈夫?”という価格で売られていることもあって、それはやっぱり実店舗の楽しさです。僕自身がマニアックな盤が好きということもあるんですが、一番はお客さんに聴いたことのない音楽を知ってもらいたいということ。そこがこの店に来ていただける楽しさになるんじゃないかと思うんです」

しかし、7インチならではの難しさも。

「7インチ盤の片面に収録できるのはたった6分ほど。音楽を切らしたくないので、いつもコーヒーを淹れるタイミングを慎重に見計ってます(笑)」

ターンテーブルは2台導入し、少しでも音を止めないように工夫している。メインは1960年代の西ドイツで製造された〈エラック ミラコード 10H〉を使用。もう一台も同じメーカーで1世代前のものを最近導入した。スピーカーは東ドイツのシュルツ社製。長く聴いていられるよう、高音と低音が響かないように調整。

横浜・シェルターピープル ミキサー
真ん中にあるミキサーはオーストラリアの〈Condesa〉製。

趣味を詰め込んだ空間

レコードやオーディオ以外にも、店内には山田さんの趣味が詰め込まれている。

「もともと、器が好きで、特に骨董には目がない。音楽だけじゃなくて、器やアートなんかの話もよくしていますね」

知人に骨董商が多く、器の多くはそこで買っている。主に安土桃山時代の器や、中国、朝鮮、ヨーロッパの骨董を揃える。

「お店でデザートや日本酒を出すとき、たまに使っています。例えば南フランスのタイルは、ケーキを載せたりしてもよくマッチする。貴重なものも多いのですが、器なので使ってなんぼという感覚もあって、気兼ねなく使ってます」

無駄のないミニマムな空間に、ぎゅっと濃縮された店主のマインド。場所柄も相まって一見ハードルを高く感じてしまうが、山田さんはいつでも気さくにジャズや骨董のことを教えてくれる。

「音楽好きの方には、器の魅力も知ってほしい。逆に器好きには音楽のことを伝えたい。ここに来てくださる方にとって、新しい出合いを提供できる場所でありたいと思ってます」

横浜・シェルターピープル 材木
店内の壁には一本の板が。なんと奈良東大寺の材木だという。