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文房具を愛する10人が選んだ、自慢の逸品〜前編〜

長年使っている筆記具、仕事に欠かせない刃物、人に教えたくなる技ありモノ。10人の文房具好きが、見せたい、語りたい、自慢したい愛用アイテムを紹介します。

Photo: Satoshi Nagare / Text: Masae Wako

渡邉康太郎
「万年筆とインク」

道具の色や名前にまつわる物語が、想像力を刺激します。

ある女性と話している時、彼女が発した「月の埃」という言葉の響きに名状し難い魅力を感じて恍惚としました。訊けばそういう名のインクがあるとのこと。名前の詩情に惚れ込んで以来、このくすんだ紫のインクを使っています。

ゴッホの肖像画の色をモチーフにした万年筆もそうですが、文字や絵を描きながら考え事をする時は、道具の名前や色にまつわる物語が想像力の飛距離を伸ばしてくれる。月並みなメモでさえ、新たな連想やアナロジーをまとう気がします。

牟田都子
「ペンシルホルダーと肥後守」

気持ちよく仕事を進めるための、気が合う相棒です。

校正の仕事には、消した跡が残りにくい黒鉛筆を使うことが多い。そんな私にとって、この2つは大切な相棒です。

鉛筆は「尖らせすぎず、一定の太さの線を、長く引き続けられる」形に削るのが理想で、それに最適なのが。使い心地が圧倒的にいいうえ、削る音も小さい。出版社の校閲部ってシーンと静かだから、鉛筆を削る音も気になってしまうのです。ペンシルホルダーは木の美しい色と質感に一目惚れ。素材違いで買い足し、時に修理もしながら大事に使っています。

氷室友里
「ハサミとスウェーデンタッカー」

使うたびにちょっとテンションが上がるものが好き。

「どこの?かわいい!」としょっちゅう褒められる〈ヘンケルス〉のハサミ。刃を閉じるとシンプルですが、使っている時の姿が愛らしい。刃の形や幅も完璧で、スパスパとよく切れます。

ガンタッカーは、パネルに布を張る時に使う少々マニアックな道具ですが、ガシッと針を打ち込む音もビジュアルも骨太でカッコいい!文房具はワークショップなどで人と共有することも多いので、普遍的な美しさや使いやすさに加え、持つとテンションが上がるものを選ぶことが多いですね。

藤原嗚呼子
「スナップパッドと種子鋏」

文房具は自分の好みをさりげなく主張できるモノだと思う。

16世紀、鹿児島の種子島へ鉄砲を伝えたポルトガル船に、鋏職人が乗っていたんですって。島では刀の材料の鋼になる砂鉄が採れて、刀鍛冶も多くいた。それが重なって生まれたのが種子鋏。今も当時の技術で作られていて、シャキーンという音も素敵。存在感もすごいのです。大切にしなくちゃと愛おしくなります。

スナップパッドは漫画のネーム用紙や構成を描いた紙の裏紙をまとめ、一冊のメモにして使えるもの。やっぱり紙が好きなので、裏紙をおしゃれに持てるのは嬉しい。

長山智美
「コンポジションノートとダイアリー」

人様の前で使うノート類はデザインが良くなきゃイヤ。

黒白の表紙が印象的な〈ミード〉のノートは、クールなアメリカンステーショナリーの本家本元のような存在。映画の小道具にもよく使われる唯一無二のデザインで、ワタクシ中学生の頃からファンです。

〈スマイソン〉のダイアリーは超軽量でコンパクトなうえ、紙が上質で素晴らしく書きやすい。プチお高めですが価値は十分。メモ代わりにも使ってます。毎年替わるカバー色も素敵なので10年以上愛用中。どちらも人に見られて恥ずかしくない良きデザインですの♥