Visit

呪物を“祝う”?多くの人を魅了し大盛況で幕を閉じた「祝祭の呪物展」を解剖する

大阪〈ASITA_ROOM〉(4月25日〜5月8日)、東京〈BnA WALL〉(5月20日〜6月3日)で開催された「祝祭の呪物展」とは何だったのか。展示では語りきれなかった、ビハインドストーリー。

photo : Shun Shimizu / text&edit : Sara Hosokawa

「呪物を祝おう」。そんな聞き慣れないフレーズを掲げ、「祝祭の呪物展」が大阪、東京で開催された。連日大行列ができ、東京では会期が延長するほどの盛況ぶり。いったい人は「呪物」のなにに魅了されているのか。そして「“祝祭”の呪物」とはどういう意味なのか。その謎を解くため、企画した〈アシタノホラー〉片山さあさんとApsu Shuseiさん、呪物コレクターで今回の展示物の所有者であるはやせやすひろさんと田中俊行さんの4人に話を聞いた。

展示に並んでいたのはこんな呪物たち。展示では語り切れなかったストーリーに迫る!

いったい、どんな呪物が展示されていたのか。4人のお気に入り呪物を、展示を見に行った人も行けなかった人も楽しめる裏話とともに紹介する。

田中さんのお気に入り「チャーミー」「水月」
“先天的呪物” “後天的呪物”とは

「チャーミー」は介護施設にあった「かわいがると死ぬ」と言われている人形だ。実際に施設で5人の方が亡くなり、困った職員が田中さんに誕生日プレゼントとして贈ったそう。「僕も引き取った後に肺炎になって3週間苦しみました。今も一緒に家にいますが、寝室は別(笑)。チャーミーは誰かが故意的に呪いをかけたわけではないのに、いつからか“怖い”ものとして語られてしまったんです」(田中さん)

それとは対照的に「水月」は呪術のために、つまり呪いのまじないを込めるためにつくられたものだ。「初めから呪物としてつくられた“先天的なもの”と、呪物として語られた“後天的なもの”があります。チャーミーのような後天的呪物のことを“現代呪物”と呼んでいます」(Apsuさん)。

呪物を抱える田中俊行さん
「チャーミー」(左)と「水月」(右)を大事そうに抱える田中さん。「チャーミーのベッドは僕がつくりました」(Apsuさん)。

はやせさんのお気に入り「呪いの絵画」「呪術本」
会期中に浮かび上がった新たなミステリー!?

「『呪いの絵画』はもともとはアメリカの珍品蒐集家、ダン・スミスさんが蚤の市から持ち帰ったものです。その日から、虫が湧く、ペットが死ぬ、給湯器やインターネットが壊れる、そしてとうとう彼自身も鬱になってしまうんです。さすがに怖くなったのか〈eBay〉に出品していたので、自分が落札しました」(はやせさん)

はやせさん自身も、この絵画が家に来てから給湯器とトイレが壊れ、食欲がなくなって2カ月で10kg痩せてしまったという。お祓いを頼んでも断られ、この展示で飾ろうということに。そこで新たなミステリーが発覚する……。

「展示に来てくれた画家の方と、額をつくっている方が同じことを言っていたんです。『左の赤ちゃんと右の人形は、描いてる人も、使ってる絵の具やタッチも違う』と。もしかしたら人形は、右ではなく左なのではと思い始めました。右を削っていくと、何か別のものが現れるかもしれません。展示を開催しなければ気が付かなかったことです」(はやせさん)

約350種類のまじないが書かれた「呪術本」は1781年に発売され、江戸時代の人々が実際に持っていたものだ。病院に行けない町民が、ここに書かれているまじないによって体調管理をしていたという。「本の中に、“おならが臭くなる方法”という術があるんです。例えばお金持ちに嫁ぎたいときに、ライバルを引きずり落とすために使われていました。知り合いと実践してみたんですが2人とも臭くなって、その日は一日笑っていましたね」(はやせさん)。

片山さんのお気に入り「アルゼンチンの拷問木偶」「オラクル」
見た目から入る呪物の愛で方

片山さんはデザイナーという職業もあり、造形美に惹かれるそう。「アルゼンチンの拷問木偶」は、少し間の抜けた見た目からか、女性人気が高いというが、そのストーリーはちょっと過激!?

「アルゼンチンの拷問部屋の前にあったものです。部屋の中でどういう拷問を受けているかがひと目で分かるようにつくられたもの。この木偶だと、目と腕が不能で、歯が抜かれている。肌の肉は削がれていて、足の腱も切られています。拷問を受けた人が死ぬと木偶を焼いて捨てるんですが、これは残っているので、この状態で逃げたか逃がされたか……というストーリーが見えてきますね」(はやせさん)

セヌフォ族に伝わる「オラクル」は呪術師だけが扱える、願いを叶えてくれる呪物だ。「村で盗みなどの犯罪が起きたときに頼ることが多かったようです。オラクルは長い腕で犯人を指し示して解決してくれるけど、本当に精霊が宿ってるかどうかは分からないですよね。そう考えると、村のみんなが指し示された人のことを犯人だと思っている状況ってすごく怖い。そういう責任を押し付けられてきたオラクルも、今は責任から解放されていて、だらんとしている様子がリラックスしているようにも見えるのが愛しいです」(Apsuさん)。

Apsuさんのお気に入り「スンバ族の馬骨崇拝」「縁切りカエル」
豊作祈願にポップな見た目…。これも呪物

「魚、トカゲ、トリ、穀物と思われる点があしらわれている頭蓋骨彫刻は、おそらく豊作祈願のための呪物です。詳しくは言えませんが、つい最近この呪物のおかげと思われる嬉しい出来事が。田中さんに恵みをもたらしました」(Apsuさん)

ポップな見た目のカエルの呪物は、ストーカー被害に悩まされていた女性がハワイのシャーマンに相談したところまじないをかけてくれた「縁切り」の呪物。「スケボーに乗っているのが、相当早くまじないの効果を出してくれる、という意味だと捉えると可愛く見えてきます。実際に、その女性はすぐに縁が切れたそうです」

Apsuさんは、もし数十〜数百年後に塗装がはげて目だけが残った状態で発見されたら、という想像を話してくれた。「現在はこんなにポップな見た目だけど、未来の人は本当に恐ろしい縁切りの呪物だと考えるんじゃないでしょうか」。

合格祈願も呪物?そもそも呪物とはなにか

ここまで見てきて、呪物とは単に「呪術に使われる道具」のことではないとお分かりいただけたはずだ。もちろんそれも呪物の一側面だが、「祝祭の呪物展」を主催する4人は別の視点から捉えている。

「僕たちは呪物をもっと個人的なものとして認識しています。呪術という儀式的なことに使うものだけでなく、個人の願いや想いが込められたものも呪物と呼んでいます。お正月の鏡餅、合格祈願も呪物と言えるわけです」(Apsuさん)

「『呪い』は『まじない』とも読むように、もともとは健康のためなどに使われていました。ところがいつからか人を傷つけるような使われ方もしていった。その『のろい』の側面が注目されたため、現代では『怖い』と捉えられやすいんです」(はやせさん)。

呪物は「怖い」ものではない。呪物に拍手を送りたい

「怖い」という感情だけで捉えるのではない、というスタンスは、彼らが「祝祭の呪物展」を開催した経緯と深く紐付いている。事の発端は2019年の「アシタノホラー展」。「何回か会場にいらっしゃった方が『おばあちゃんのデスマスク』を見て『顔つきが変わってきたね』と言ってくれたんです。呪物を怖いものとしてではなく、もっとフラットに展示物として見てもらいたいという想いから、今回の『祝祭の呪物展』を企画し始めました」(片山さん)。

呪物たちの平穏な姿を見てほしい。「人の願いや物語を一方的に押し付けられてしまった呪物たちに拍手を送りたい」と4人は語る。

人の願いを受け責任を果たした呪物たちは、それ自身は悪くないのにもかかわらず、それらが持つパワーやストーリーによって忌み嫌われてしまった。この展示はそんな呪物を供養し、祝う場なのだ。

4人がいま、呪物をつくるとしたら

そんな4人が自分のために呪物をつくるなら?それぞれの答えが返ってきた。

「妻は抜いた歯を持ち歩いていて、緊張すると口の中に入れてコロコロしたり、頬ずりしたりするんです。妻の歯やパーツを使って、自分を守るまじないをかけたお守りにしたいです」(はやせさん)

「自分が死んだら大腿骨を呪物にして展示してほしいですね」と話すのは田中さん。呪物好きには、自分自身が呪物になりたいという人も少なくないんだとか。

展示の企画者であるApsuさん、片山さんは、もうすでに呪物をつくっていると言えるかもしれない。「文様作家としての活動では、自分の想いを物語にして描いてるので、現在進行形で呪物をつくっている感覚があります。片山さんはこの展示のために呪物モチーフのグッズをたくさんつくっているので、すでに“呪物メイカー”になっているとも言えますね(笑)」(Apsuさん)。

「呪物展」2、3弾企画中。今後の展開にも注目

大阪・東京ともに大盛況で幕を閉じた「祝祭の呪物展」。今後の展開に期待しているファンも多いのではないだろうか。

「まだ確実ではないですが、コンセプトは考え始めています。パーティーのあとって普段の生活に戻りますよね。次回は、呪物の日常を見せる展示がいいかなと思っています。また、今回の展示には予想していなかったいろいろなジャンルの方が来てくれたので、第3回はそういう方々を巻き込んで、それぞれの呪物観を見せる『拡散の呪物展』なんかも面白そうです」(Apsuさん)

呪物の魅力をより多くの人に伝えるため、入り口はあくまでもカジュアルに。デザイン面へのこだわりや、会場のひとつに〈BnA_WALL〉を選んでいることに、そんな姿勢が表れている。

「怖いもの見たさ」や、オカルト的なものへの興味を入り口に展示を見に行った人も、その背景に文化や歴史の厚みを感じることができる。未知ではあるが、確かに存在した人々と、彼らが紡いだストーリーに想いを馳せる。そんな体験が、この展示にはあった。

誰かの願いが込められたものが「呪物」なら、この展示自体が「呪物を祝いたい」という4人の想いが生み出した「呪物」だったのかもしれない。