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文化人に愛され続けてきた、カルチャーが生まれる京都の酒場〈八文字屋〉〈まほろば〉

面白い場所には面白い人が集まるもの。50年以上京都の街を見つめてきた老舗と、アレン・ギンズバーグも飲みに来た、左京区のシンボル的なお店。普通の酒場とはひと味もふた味も違う2軒をご紹介!

photo: Junya Oba / text: Ado Ishino

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八文字屋(河原町)

京都の街を見つめて53年。その存在はまさに生き字引

木屋町通。雑居ビルの3階に今年37年目のバー〈八文字屋〉はある。作品集が散乱した店内を横目に「バイトの女の子が片してくれる時もあるんだよ」と笑うのは店主で写真家の甲斐扶佐義さんだ。

本の山に甲斐さんの写真集『八文字屋の美女たち』を見つけた。アルバイトやお客の女性たちを撮影した、通称“美女シリーズ”として数十タイトルが出版されている名作。人の痕跡、夜の刹那が妙に沁みる。甲斐さんは国内はもとより欧米各地で招待個展を開催、写真集は40冊以上、著述家として数々の書籍を出版。

伝説の喫茶〈ほんやら洞〉の創始者としても知られる人。60年代の学生運動などに自らも関わりつつ、70年代には関西フォークシーンの興隆に尽力し、激動の京都を多くの文化人と生きてきた。穏やかな口調でお酒をちびちびやりながら話す甲斐さんは御年72歳。

「こんな汚いところにしがみついてるアホな人生だよ。気がついたら歯もなくなってさ、“は”かない人生だよ」とまたニヤリ。今でも日記代わりに写真を1日200枚、ブログやSNSの更新も毎日欠かさない。新著の出版は目前で、写真集はあと10冊分(!)の企画を構想中だ。

京都〈八文字屋〉甲斐扶佐義
甲斐扶佐義(かい・ふさよし)/公式サイト:kaifusayoshi.website/

まほろば(元田中)

アレン・ギンズバーグも飲みに来た、
左京区のシンボル

左京区の玄関、出町柳より北へ高野川沿いの川端通を上がっていくと現れる〈まほろば〉。地層のように堆積する膨大な書籍やCD、壁面を埋め尽くす写真やフライヤーに圧倒される店内。多くの文化人や音楽人に愛されているのは、ここが左京区であることも大きい。

「東京で言うなら中央線っぽい感じ。自分の価値観でマイペースに楽しくやってる連中が多いのが左京区文化な気がします」と店主の和田康彦さん。今年の1月に亡くなった音楽家、南正人さんもここを愛した一人だ。「偉大なのにツッコミどころ満載なところが大好きでした。あんな先輩がいたからもうちょっと生きていけると思ってたのに。大きな堤防が流されてしまった感じです」。

創業34年。〈まほろば〉は、和田さんにとって仕事場から学び舎に変わった。「ここで行うすべてのことが学びだと感じるんです。魚をさばくことも、社会学や哲学の本を読み返すことも。そうして自分の世界観が作られていくのを感じています。もう僕は老人だから、日々の小さな幸福を感じながらやるのがいい」。本日も開店。1曲目は、ボブ・マーリーの「アップライジング」と決まっている。

京都〈まほろば〉和田康彦
和田康彦

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