「鉱物の美しさは、つまるところ結晶の色や形、そしてそれらが組み合わさった造形の美だと思います。鉱物の造形は内部の原子や分子の配列の“規則性”によって引き起こされるため、対称(シンメトリー)の美しさでもあります」
そもそも、昆虫などの生物と異なり、鉱物の結晶には決まった大きさというものがないと語る。
「巨大なものから微小なものまで存在します。ただし、巨大な結晶は長い成長時間と多くの成分を必要とするため比較的数が少なく、小さいものほど劇的に数が増える。そのため、完璧な形の結晶は小さいサイズの結晶にこそ多くなるし、入手もしやすくなる。また、ある種の鉱物の結晶は、そもそもあまり大きくならないこともある。ウバロバイト(灰クロム柘榴(ざくろ)石)は、2cmあれば巨大だと言われます。それら極小の鉱物結晶を見ることで、結晶の美しさの真髄がわかるのではないでしょうか」
極小の鉱物を撮影するのは非常に難しい。だが、2000年代の初めにテクノロジーが進化し、複数枚の写真のピントの合った部分をコンピューター上で合成する「深度合成撮影」が可能になったことで劇的に変わったという。〈結晶美術館〉はこの撮影技法でもって、鉱物のマイクロ撮影を行ってきたパイオニアだ。
「フィルムの時代は、小さな標本撮影に苦労しました。深度合成の技術は昆虫などの生物の生態・記載において導入され、やや遅れて鉱物に利用されるように。小さければ小さいほど美しい結晶を撮影する趣味が、外国のみならず日本でも広がりつつある。レンズを通すことで、鉱物の真の美しさが見られることに、多くの人が気づき始めたのでしょう。化学や結晶学などの学問の黎明(れいめい)も、鉱物の美しさと、自然が対称な物質を作り出す不思議さに魅せられた人々の積み重ねた知見が基になっています。鉱物の美しさは、社会の役に立っているということですね」
Quartz【クォーツ】
静岡県賀茂郡西伊豆町宇久須黄金崎海岸で産出。左右12mm。日本では、宝石質の大きな水晶の産地は、山梨など数ヵ所に限られてしまうが、小さなものであれば各地で産する。「米粒のように小さいものですが、接写で狙うと美しい水晶の素顔が見えます」
Clinoclase【クリノクレース(斜開銅鉱)】
広島県尾道市瀬戸田町(生口島)で産出。左右2.4mm。ヒ素を含む銅鉱床の地表部分に生じるもので、藍銅鉱に似ているが藍色がより濃いのが特徴。日本の古い岩絵具の岩群青からヒ素が検出されるのは、この鉱物の混入によるものと思われる。
Fluorite【フローライト】
ナミビア・オチョソンデュパ州オコルス鉱山で産出。左右20mm。八面体結晶の蛍石が、成長の過程で六面体結晶になったようで、「十字架」の形に。蛍石は部分着色(ゾーニング)が起こることが多いが、結晶の形まで変化することは稀。
Hemimorphite【ヘミモルファイト(異極鉱)】
宮崎県西臼杵郡日之影町大吹鉱山で産出。左右7mm。亜鉛を含んだ鉱物が、地表近くで酸化し生じた亜鉛の花。異極鉱の名前は結晶の両端の形が異なることから来ている(この標本ではうまく出ていない)。四角板状の透明な結晶集合体を作るのも特徴。