刺激的な人生が、かっこよさを生む
日本のファッションシーンを語るなら、〈TAKEO KIKUCHI〉の創設者としてメンズファッションの礎を築いた菊池武夫(愛称タケ先生)の名は外せない。2025年86歳を迎えるタケ先生が作り続けてきた〈TAKEO KIKUCHI〉のイギリス的な不良性やアメリカ的なカジュアルなファッションは、今でこそ浸透しているが、日本の1980年代には新鮮なスタイルであった。
そして、現代まで幾度となく波を乗り越えてきた〈TAKEO KIKUCHI〉は、2024年に創立40周年を迎えた。一度はデザイナーを退きながらも、2012年にクリエイティブディレクターとして復帰。彼が考えるかっこいい大人とはどんなイメージなのだろうか?
「私は膨大な服をデザインしてきたけれど、いつも自分が興味のあることを繰り返しやってきただけ。今思えば80年代は、とても気負っていました。毎シーズン燃え尽きていたので、過去を振り返らない状態でした。常に前を見て新しいと思ったことをやっていたけど精神的にとても大変でしたね」。
55年以上のデザイナー人生を振り返りながらタケ先生は、かっこよさについて語り始めた。
「自分自身もかっこよく在りたいとは思っているけど、今でもまだなっていない」とタケ先生は謙遜するものの、本人を見れば十分にかっこいい。自身が手がけた服を纏い、凜とした姿勢の良さに文句をつけられるはずがない。
「例えば、ジャン=リュック・ゴダールはかっこいいですよね。彼がやってきたこととスタイルがすごくマッチしていて。あと、俳優の故・西田敏行さんですね。彼もユーモアがあって愛すべき存在と言いますか。白洲次郎さんとか言いたいけど彼はかっこよすぎてピンとこないかな(笑)」
服は、人が着てこそかっこよくなるもの
タケ先生が手がけた〈TAKEO KIKUCHI〉では、ランウェイショーやキャンペーンビジュアルにその時代の象徴的な俳優やミュージシャンがたびたび登場してきた。中でもお馴染みの2人がいる。
「やっぱり浅野(忠信)くんは光るものがありますよね。俳優としてはもちろん、絵を描いたり音楽をやったりと、生き方が素敵だと思うんです。まだ無名の頃からオーラがあって、年齢を重ねた今でも変わらないかっこよさがあるんですよ。
それと、ショーケン(故・萩原健一)だね。彼も若い頃から迫力があってかっこよかった。彼らに共通しているのは、若い頃から変わらず年老いてからも魅力が増している。軸がブレないというか、個性がしっかりある。彼らと一時代を共有できたことは、私にとってもうれしいことでした」
55年以上もデザインを手がけるタケ先生は、服作りの際に今でも変わらないやり方がある。それは手描きのデザイン画を作成することだ。そして、その絵は必ず顔から描く。「どんな人物でどんな雰囲気の人なのか?」という人物像を描くことから、服とスタイルを決めるのだという。
「服というのは着る人がいて初めて完成する。“こんな人が似合いそうだな”とイメージして描くんです。だからこそ、これまでランウェイショーでもキービジュアルでも、服を着た人物の魅力を強調することにこだわってきました」

一人のデザイナーとしてかっこいい服を作り続け、かっこいい大人をサポートしてきたタケ先生。現在でも、散歩がてらさまざまな展覧会や話題のスポットに足を運び、常に刺激的なものへの渇望が尽きることはないという。
「今のファッションは、ベーシックなものがメインになりすぎて私にはまったく響かない。私にとってベーシックは退屈なんですね。もちろん昔からベーシックはあったけど、どちらかといえば野暮ったいもので。今ではそれがかっこいいものになり、ベーシック一辺倒。だからこそ私は、自分が楽しむことを重視して刺激的な何かを探しているんです。そういう意味では、スーツをトラッドじゃなくてカジュアルに着ている人がかっこよく見えて気になりますね」
新しい時代に突入した〈TAKEO KIKUCHI〉では新たなコレクション「THE FLAGSHIP」を展開。さらに、タケ先生が立ち上げ2025年に50周年を迎える〈MEN'S BIGI〉とも、実に40年ぶりとなるコラボレーションアイテムを発表した。タケ先生のクリエイションはまだまだ終わらない。
