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かっこいい大人が夢中になっているもの。マスクメーカー・村山伸

世界中のかっこいい大人たちは、今何に夢中になり、何に励んでいるのか。国内外で活躍する、マスクメーカー/ソフトスカルプター・村山伸さんを訪ねインタビューしました。

photo: Keisuke Fukamizu / text: Asuka Ochi

アートとファッションの境を曖昧にする創作

唯一無二という言葉がありきたりに響くほど、村山伸の作品は独創的だ。自身のアートピースとして制作するマスクは、ケンドリック・ラマーやエイサップ・ロッキーら、世界的ミュージシャンやメゾンからの依頼が引きも切らない。

2025年2月、日本初となる〈Denim Tears〉のポップアップでは、発表したマスクとともにデザイナー緑川卓とのプロジェクト〈DELICATE UNIT〉によるボンバージャケットも話題に。今年、創作活動に集中するため、2013年にNYで立ち上げた〈Twoness〉を終了。さらにその先のステージへと向かう。

そもそもファッションに興味を抱くきっかけは明確にあった。

「1990年、小6か中1の時に、母親宛てに届いた〈Ralph Lauren〉のカタログを見て、こんなにカッコいい世界があるのか、と衝撃を受けた。改めて昔の広告を見ても、アイテム自体はベーシックながら、レディースのスタイリングでソックスを2枚履きしていたり、セーターの上にポロシャツを着たり、とてもアバンギャルドなブランドだとわかる。自分自身の大きな分母になっているのは、そういう“普通の服”だと思います」

その目覚めから、洋服の道に進むことは決めていた。専門学校へ通うために上京し、約10年服飾に携わった後、拠点をNYへと移す。

「洋服は好きだったけれどファッションと呼ばれるものが得意でなく、業界にも違和感があった。2008年にNYへ移ったものの服を作る気になれず、マスクを作ろうと思ったんです。太古から人間が身に着けてきたあらゆるものがファッションアイテムになっていった中で、マスクだけは違った。世界中の神事や祭事で身に着けるものであったのに、いまだファッションになっていないアイテムとして惹かれたのだと思います」

その5年後、〈Engineered Garments〉の鈴木大器の誘いで服作りを再開。古着をリメイクしたアイテムで、当時初めて〈NEPENTHES NEW YORK〉にラックをもらう異例のブランドとなった。

「そこから始まった〈Twoness〉では、ジーパン、ジージャン、ウエスタンシャツなど、アメリカの古典的な洋服を素材に、再解釈することで、新しい価値を提案できないかと考えていました」

思い入れのある素材を、独自の世界に転換する

マスクにも服にも共通するのは、ヴィンテージを素材とすること。〈DELICATE UNIT〉のMA-1にはイギリスのパブタオルが縫い付けられ、新作のマスクには解体したウエスタンブーツが用いられる。

「90年代初頭、マルタン・マルジェラが革ジャンの代用品として、ジージャンに黒いペンキを塗って、自分のデザインとしていた。その時、マルセル・デュシャンのようなアートを、服の世界でやっている人がいるんだと驚いた。

以来、既製品を使って、デュシャンともマルジェラとも違う自分らしさを表現できる創作を模索するようになりました。特に近年素材として使っているウエスタンブーツは、カウボーイ文化の中で生まれた歴史的背景や特殊な造形にも興味があって、学生の頃からノートに落書きするほど好きなもので。自分の作品を象徴する素材になり得るのかなと思っています」

一方で〈Denim Tears〉とのコラボレーションでは、自身のルーツで幼少期から愛着のある〈Ralph Lauren〉のスイングトップを解体し素材に。マスクも服も一貫して、好きで熟知しているものを使って、その背景から深掘りし、まだ見ぬ新しい造形へと作り上げる。

2023年から拠点をNYから日本に移し、現在は作家活動と〈DELICATE UNIT〉での服作りに道筋を絞った。

「マスクと服は、アートとファッションとして別々のようであって、自分の中でその境界線はなくなりつつあります。近年の個展を機に、自分の創作物の受け手を意識したのも新しい発見で、これからは自分の手で渡すことや、伝えることもやっていけたらと思っています」

マスクメーカー、ソフトスカルプター・村山伸
NYから帰国後、拠点とする長野県松本市の自宅にて。壁に飾った作品「Bull's Head」は、ピカソの同タイトルの作品のダブ・バージョンとして制作。牛つながりでNBA〈シカゴ・ブルズ〉のロゴをペイント。