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先人らの英知が息づく花形。複雑時計だから、できること

経過時間を計る、海外の時間や今日の月齢を知る、現在時刻を音色で知らせる……。これらを歯車やカム、レバーなどの金属部品だけで実現する複雑機構は、機械式時計の花形。先人らの英知が、それぞれメカニズムに息づく。そんな複雑時計だから、できること。

本記事は、BRUTUS「それでも欲しい時計、どれですか?」(2024年11月1日発売)から特別公開中。詳しくはこちら

illustration: Yusaku Hanakuma / text: Norio Takagi

クロノグラフ

ボタンを操り、過ぎ去った時の長さを計る

クロノグラフとは、ストップウォッチ機能が付いた時計を指す。大半がダイヤル中央の時分針と同軸に秒単位の、インダイヤルに分や時単位の各積算計針が備わり、それらをプッシュボタンでスタート・ストップ・リセットできる仕組み。

時刻表示機構にクロノグラフ機構を組み込んだ一体型と、時刻表示するダイヤル側にクロノグラフ機構を載せたモジュール式に大別でき、開発と組み立てが困難な一体型の方が一般的に高価。

クロノグラフの駆動は秒針を動かす歯車(主に四番車)が担い、スタート・ストップのためのクラッチ機構が備わる。伝統的なクラッチは左右に歯車を移動させる水平式。近年は作動中の負荷が少ない上下にディスクを動かす垂直式が増えている。

hanakuma yusaku 時計のイラスト

GMT

現地と日本の時間がわかる海外旅行の相棒

GMTとは、Greenwich Mean Time(グリニッジ標準時)の略。時計では複数の時間帯を表示できるマルチタイムゾーン機能のうち、第2の時針(副時針)で別の時間帯を指す機構の総称として使われ、副時針はGMT針と呼ばれる。

かつては副時針をリューズ操作で1時間刻みに前後にジャンプさせられる設計が大半だったが、近年は主時針が操作できて現地時間(ローカルタイム)に合わせられ、カレンダーも連動し、副時針は常に母国の時間(ホームタイム)を示すモデルが主流となっている。

今いる場所の時間をメインで示すため、トゥルーGMTの名で旧来の機構と区別することも。またGMT針は、ホームタイムの昼夜がわかる24時間表示。

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ムーンフェイズ

神秘的な天体現象をダイヤルに写し取る

ムーンフェイズとは、月の満ち欠けの周期(朔望月)における、その日の位相(Phase)を示す機構である。発明者は不明だが、16世紀のクロックに搭載例が見つけられる。朔望月は、古代の天体観測で約29.5日とかなり正確に算出されていた。

ムーンフェイズのディスクには上下対称位置に2つの満月が描かれ、外縁に29.5の倍の歯が切られている。これを1歯ずつ、時針が2周する(24時間が経過)たびに送ることで、朔望月2周期分の59日で1周させ、半円の窓で1周期分ずつを順に見せている。半円の窓に設けた2つの山が月を順に隠すことで月相を表し、山の間で満月となる。近年は100年単位で調整を不要とする、超高精度ムーンフェイズも数多く登場している。

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パーペチュアルカレンダー

閏年の2月29日の表示も時計にお任せ

月の日数の大小を自動で判別し、閏年(うるうどし)の2月29日も正確に表示する。パーペチュアル(永久)カレンダーは、18世紀末に発明されたといわれる。月末と月初めを正確に示す仕組みのキーパーツは、4年分の各月の大小を異なる溝の深さとピッチとでプログラミングした48ヵ月カム。

その名の通り48ヵ月で1周し、異なるピッチで各月の月末に溝が来るよう設計され、カムをなぞるレバーの爪先が溝に落ち込むことで、日付表示の歯車を送る。溝は月の日数が小さいほど深く、その分レバーの動きは大きくなり、最大で2月28日から3月1日まで4日分送ることができる。ただしグレゴリオ暦で2100年は閏年にならないので、大半はこの年の3月1日に調整が必要。

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トゥールビヨン

テンプへの重力方向の平均化を図る

時をカウントするテンプの軸(天真)の両端は、椀状にくぼんだ人工ルビー(受け石)で支えられている。携帯される時計は、さまざまに姿勢が変わるため天真の軸先が傾いて受け石の内側面に触れ、摩擦が生じる。これが精度に悪影響を与えると考えたアブラアン−ルイ・ブレゲは、テンプと脱進機とをキャリッジやケージと呼ばれる回転体に収めることで、摩擦の変化の平均化を図る機構を考案。

トゥールビヨンと名づけ、1801年6月26日に特許を取得した。四番車は地板に固定され、三番車がキャリッジに取り付けたカナ(小歯車)と噛み合って全体を一定周期で回転させ、脱進機は固定四番車の歯に沿って働く仕組み。1分周期が主流で、秒針を兼ねる。

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ミニッツリピーター

美しい音色で現在時刻を打ち分ける

複数のゴングをハンマーが打ち分け、その数で現在時刻を伝える機構をリピーターと呼ぶ。17世紀後半、照明がない夜間でも時間がわかるクロックとして発明され、後に懐中時計でも登場。当初は15分単位のクォーターリピーターだったが、5分単位、さらに1分単位のミニッツリピーターに進化し、1783年に初代ブレゲがリング状のゴングを発明したことで、一気に小型化がかなった。

多くは高音と低音の2つのゴングが備わり、時単位(1~12回)を低音で、続いて15分単位(0~2回)を2つの連打で、分単位(0~14回)を高音で順に打ち分ける。さらに3つのゴングで15分単位をメロディとしたカリヨンや、4ゴングのウェストミンスターも存在する。

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