聖書の文言を刺繍した19世紀イギリスの額と北欧の陶器。金色の絵の具だけで描いた現代アートにアフリカのカゴ。時代も国もさまざまなものが、見晴らしのいいヴィンテージマンションに並んでいる。ブルーグレーの壁紙を貼ったリビングの隣は、和室を改装したダイニング。静謐な雰囲気をつくる畳は残してテーブルを置き、パートナーは仕事場としても使っている。
19世紀ルーマニアの農家のテーブルに、陶器や銅器など古今東西で使われてきた美しい道具。壁には古裂（布の骨董）をパッチワークしたボロ。「白壁だと古いものが浮くし、散漫な印象になるから」と壁紙を濃いブルーグレーにした。 
「座る場所はたくさんあります」と南雲さん。室内のあちこちに椅子やスツールがあり、椅子自体の美しさはもちろんだが、そこに座った時の眺めも美しい。60年代の名作、デンマークのハープチェアに腰かけると、目の前は下の写真。 
ヴィコ・マジストレッティのラッフルズソファの横に、細長いアフリカの仮面と遊牧民が布を運ぶのに使った木箱。雪豹の毛皮とリャマの革が張られている。円いメタルトレーはマシュー・マテゴの作。「時々、壁から外して使います」 
迫力あるアイヌの木彫り盆は100年ほど前のもの。全面に魔除け的な文様が彫られている。「実際にアイヌの人々が使っていたもので、なかなか残っていないんです」。床に置かれた鉢はフランスの作家ものの陶器で1950年代製。 
背景のシルクスクリーンは、イギリスの画家ベン・ニコルソンの作品。ガラスは北欧の巨匠タピオ・ウィルカラ。白いマトリョーシカはマルタン・マルジェラで、「中身は絶対に出さない！ という勝手なコンセプトで飾っています」。
「ものは好きですがコレクターではありません。何がいちばん好きっていうのもないし、この部屋のここに置くため、みたいな買い方もしない」。何かに縛られるのは苦手……と笑う南雲浩二郎さん。
「質の高いものが好き。かたちが美しいという質の高さもあれば、“この椅子の木の質感が素晴らしい”とか“この籠は編みの腕前がすごい”というクオリティの高さもある。ラフなものも嫌いじゃないし、出自がわからなくてもいいけれど、洗練はされていた方が好ましいかな。稀少や有名といった価値より質に興味がある」
「好き」で終わらせず、ちょっと勉強することも必要だと言う。
「よく“感性が大切”と言いますが、感性だけでは面白さが広がらない。本を読んだり背景を調べたり、自分がなぜそれをいいと思ったかを意識するのも大切です」
心惹かれた北欧の陶器と中国の古陶に、実は歴史的なつながりがあると知って嬉しくなったことも。
「姿かたちを好きと思えるなら、その先を知った方が僕は楽しい。ものへの理解も深まりますし、次へと進むきっかけにもなります」
乾いた藁の質感と紙のような軽さ。繊細かつしっかり編まれた韓国のわらじは、おそらく実用品としてつくられていたもの。この部屋にはほかにも、東北の白樺の籠やルワンダのバスケット、李朝の籠など美しく編まれたものが多い。 
ジオ・ポンティの名作スーパーレジェーラの原型となったキアヴァリチェア。金の単色で空間を描いた油彩画は現代美術家の秋吉風人。「現代を映しながら未来も表現する現代美術と、数百年前の古いものが同居しているのが楽しい」 
和室の畳を生かしたダイニング。テーブルは木村二郎。椅子は片持ち構造の名作コノイドチェアで、畳を傷つけないソリ型の脚。「桜製作所のヴィンテージ。いい木を使っているし背もたれが軟らかく長く座っていても全く疲れません」 
バミレケ族がつくる一刀彫りのスツール。複雑な細工まですべて１本の木から彫り出している。「ここまで大きなサイズは、材の稀少性から今はもうつくれないでしょうね。そういう意味で、僕にとってはロマンティックな存在の一つ」
