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建築家・入川ひでとの居住空間。好きな時代の世界観をモダニズム住宅に“復元”

心を動かすアートや骨董、手放せない愛用品。居住空間を形づくるもの。

photo: Tetsuya Ito / text: Masae Wako / edit: Tami Okano

「大好きな親父と暮らした昔の家の記憶を復元した、なんていうとロマンティックすぎるかな。イームズの家具はあるけど、ミッドセンチュリーを蒐集したいわけではない。1960~70年代に少年時代を過ごした自分の中に今も残る、リアルな時代性を空間にしただけです」

随所にモダニズム建築の精神が感じられる建物は、入川ひでとさんがサーフィンや釣りを楽しむ週末の家。前川國男の弟子筋が60年代に設計した平屋住宅だ。入川さんがここを見つけた9年前、実はボロボロの廃墟状態で、それを1年かけて「リバイバル」した。

「リノベーションではなくリバイバル。改装ではなく復元です。復元したかったのは、ものにもデザインにも色気と希望があった当時の世界観。だから可能な限り元の内装を生かし、足りないパーツも当時のものを集めました」

床は、海外のモダン住宅を真似たと思われる合板のパーケットフロアをそのまま使用。傷んでいた壁紙は60~70年代に流行った麻クロスに張り替えた。家具も同様で、イームズのラウンジチェアは実家で使っていたのと同じキャメル色を探し、リビングには、時代を象徴するスピーカー、JBLの《パラゴン》を置いている。

「パット・ブーンやビーチ・ボーイズのレコードを聴くと、少年時代の原体験が一瞬で甦る。万博の空気感が大好きで、50回以上通ったなぁとかね。僕にとって大切なのは、楽しかった記憶と一緒に暮らすこと。それが家やものを大事にすることにつながるから」