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君はもう「コーヒー泡盛」を飲んだか。そのおいしさの秘密はどこに?

君はもうコーヒー泡盛を飲んだか。一度口にするとクセになって、ついまた飲んでしまう危険極まりない飲み物である。見た目も飲み口も丸っきりコーヒーだから、油断してると帰り道はふらふらだ。作り方は実は簡単、家庭でも簡単に作れる。そのおいしさの秘密はどこに?

Photo: Makoto Ito / Text: Michiko Watanabe

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世の中には不思議な飲み物もあるもんでございます。コーヒーを飲んでるつもりなのに、帰り道は千鳥足。そう、酔っ払うコーヒーがあるんでございます。

何だソレ?という、あなたにこそ飲んでもらいたい、その名は、コーヒー泡盛。コーヒーと泡盛。およそ縁のない2つが合体することで、とんでもないおいしさとパワーを持つことになった、世にも稀なドリンクなんでございます。知らないとソンだし、飲まないともっとソンをする。

コーヒー界の異端児。
コーヒー泡盛って何?

コーヒー泡盛が人気という、京都〈ブランカ〉店主・吉岡哲生さんによれば、沖縄ではどこの飲み屋にもフツーにあるものらしい。吉岡さんも、石垣島のレゲエバー〈ココソン〉で初めて飲んで、おいしいなぁと思ったんだそう。

あ、申し遅れましたが、〈ブランカ〉は地下鉄東西線の京都市役所前駅から徒歩3分ほどのところにある小さな酒場。アジアの香りがする多彩な酒と旨いつまみで、飲み助はもちろん、食いしん坊の胃袋をわしづかみにして離さない、リピート必至の店なんである。

ここのコーヒー泡盛は珠玉。アルコール度数が30度もあるなんて思えないほど軽やか。すいすい飲めちゃう。だから、一度飲んだら忘れられない。飲んだら最後の、クセになって困っちゃう酒だ。事実、店主自身も困ってる。

「お客さんから勧められて、最初は営業中だから罪悪心でちょっと気持ちが揺らぐんだけど、一口飲むとグイグイいってしまう」んだそうな。

このコーヒー泡盛、店主の私見および客の体験談だが、いろんな効果がある。まず、寝付きがいい。すぐに眠れる。そして寝覚めがいい。だから、どんなに飲んでいても、翌日、バリッと元気に仕事に行ける。ただし、眠りは浅いので、お昼頃になると、パワー切れになってしまうから要注意だそうだが。

コーヒーのおかげか、それまで飲んでいた酒がどこかに消えちゃったように、覚醒してくるんだという。といっても、酒には変わりないので、意識とは裏腹に結構足にくる。結局、ふらふら帰宅することになるのであるが。

京都にはコーヒーウォッカを飲ませる〈ジャンゴ〉という店があった。「旨かったですよ」と、吉岡さん。でも、今はもうない。そんなこんなで、吉岡さん、自分の店でもコーヒー泡盛を作ることになったのである。その前に、まずはコーヒー泡盛の生い立ちから調査を開始する。

コーヒーと泡盛の合体で、
無限の可能性が広がる⁉

そもそも、泡盛は沖縄特産。日本最古の蒸留酒として600年の伝統を誇る、少々クセのある強い酒だ。それがなぜコーヒーと結びついたのか。

「泡盛コーヒー」を販売する、那覇の〈久米仙酒造〉によると、沖縄ではロックや水割り以外に、泡盛をいろんな割り材で楽しむ人がいるそうだ。例えば、ポピュラーなところではソーダにコーラ。それにコーヒー。缶コーヒーで割って飲む人が多かったそうだ。

コーヒーで割ると、泡盛のクセが緩和されて、ぐっと飲みやすくなる。そこで、久米仙酒造は考えた。コーヒーで割って、黒糖やキャラメルを加えて甘口にすれば、コーヒーリキュールのような感じで、若い女性にも好まれるのではないだろうか。
試行錯誤の末、2008年、「泡盛珈琲」が誕生する。アルコール度数は12度。これが人気を呼び、ヒット商品となった。

沖縄最古の酒蔵〈新里酒造〉でも、2010年、「珈琲泡盛 コーヒースピリッツ30度」を発売。こちらはまったくの無糖。おいしいコーヒーを合わせたいと、沖縄市の自家焙煎コーヒー専門店とタッグを組んで、ブルーマウンテンはじめ、豆の種類、焙煎法、淹れ方など、泡盛との相性を徹底研究して作成。

その結果、焙煎したてのインドネシア産マンデリンで作った水出しコーヒーがベストフィット。コーヒー好きも大満足のコーヒー泡盛が誕生したのである。その後、アルコール度数12度のスピリッツも販売している。

泡盛コーヒーが定着してきた2014年、今度は沖縄のファミリーマート限定で、まるで普通のコーヒーのようなカップに入った「泡盛コーヒー[BLACK]」が登場。

水出しのブラックコーヒーに泡盛をブレンドしたもので、こちらは沖縄ファミリーマートと〈新里酒造〉の共同開発によるもの。コーヒーのおかげか。アルコール度数は12度。カジュアルなお値段ゆえ、那覇空港のファミマでは、沖縄みやげとして、ケース買いする人も多いのだという。

さて、話は京都に戻る。〈ブランカ〉店主が作る「コーヒー泡盛」は、ガツンとインパクトのある“男酒”だ。酒蔵系が抽出したコーヒーと泡盛を合わせているのに比して、こちらはコーヒー豆に泡盛を注いで作る。まずは一升瓶を用意。コーヒー豆を入れて泡盛を注ぐ。コーヒー単体で飲むわけではないので、どんな豆を選ぶか苦労した。

ベトナム、ハワイは油と微妙なフレーバーが邪魔だった。油分が多い豆だと濁り、ロックにすると油分が浮いてしまう。現在はブラジルの深煎りを使用。泡盛は八重泉30度。これに漬けること、1ヵ月。

それより前に漬けたものが、順番に4本並ぶ。一番最初に漬けたものがなくなってくると、2番目に漬けたものを継ぎ足す。2番目には3番目に漬けたものを。そうやって順番に送っていく。つまり、ウナギのタレではないけれど、旨味がどんどん重なっていく感じだ。さて、この店にはもう一本、忘れちゃならないすごいヤツがある。その名も「デスプレッソ」。

ボトルにはドクロマーク。エスプレッソとデスをかけた、究極の強烈コーヒー泡盛だ。豆はエスプレッソ用。泡盛は43度の古酒「黒真珠」。強い、強い、こわい、こわい。なのに、飲むと「アレッ、おいしい♡」。いやいや、こわいわぁ。

普通の(といっても、アルコール度数30度ある)コーヒー泡盛を飲むうち、デスプレッソを目にした客たちは、次々と強い方へと心を移す。受けて立つ方の店主は「酔わすぞ、コラッ」という気持ちなんだそうな。

「コーヒーちょうだい」。カウンターに座る男性が店主に声をかける。「生クリーム入れてね。あ、アガベシロップも」。おお、生クリームか。アイスコーヒーだと思えば、生クリームもシロップも不思議じゃないか。

「ロックの場合、普段は少しだけ水を加えています。泡盛は水を加えると甘味が出るので」。この店にコーヒーはないが、このやりとりを聞いて、本当のコーヒーだと思って頼む一見さんもいるそうだ。

「アイリッシュウイスキーとブレンドしてもいいし、ウォッカと合わせる人もいる。ヘーゼルナッツのリキュールを垂らすと、ほら、もっと飲みやすくなるでしょ」。

ミルクを垂らせば、香り高いフレーバーコーヒーの気分。ああもう、だんだんわからなくなってきました。コーヒーを媒介すれば、もう何でもありじゃないか。コーヒーの可能性ってどこまで広がるんじゃあぁぁぁ。更けゆく京の夜に、そう叫びたくなったのでありました。

京都〈ブランカ〉コーヒー泡盛
右は、コーヒー泡盛の作りたて。豆に泡盛を注いだだけの状態で、豆が上に浮いている。左は1ヵ月経って飲み頃になったもの。ボトルの文字は、店主筆。

つまみのメニューは2枚にわたる。ピータン、ザーサイ、パクチーの白和え¥880、白肝+シナモン醬油のキモヤキ¥480、トリカラ¥980など、そそられるものばかり。ジャージャー麺、フォー、伴麺、炊きたてご飯など〆ものも充実。

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