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山歩きの準備は神保町で。専門店から山気分を高める喫茶店まで「山の街」巡り

古書店と肩を並べるように山道具の専門店が軒を連ねる東京・神保町。実は今も昔も山ラバーが集う場所らしい。しかも初心者にやさしいというから嬉しい限り。道具店はもちろん、自然専門書店や山好きが通う喫茶店など、山気分が盛り上がる「山の街」で、山へのはじめの一歩を踏み出そう!


現在、山の魅力を伝える特設サイト「Mt. BRUTUS」もオープン中!

photo: Eriko Nemoto / text&edit: Yuriko Kobayashi / model: Suguya Sekiguchi

「山歩きを始めたい」。登山に詳しい先輩に言ったら、「とりあえず神保町に行け」と、一枚のリストをくれた。東京・神保町といえば古本の街。でも実は昔から多くの登山用具店が軒を連ねる「山の街」でもあるのだとか。「行くだけで、山気分も盛り上がるよ」と先輩。それはもう、行ってみるしかないでしょ!

何はともあれ、登山靴探し

さかいやスポーツ シューズ館

登りたい山や自分の足の形状など条件に合ったモデルを何足か見繕ってもらい試着。登山靴がぴったりと足にフィットする靴紐の結び方も教えてもらう。

リストの一番上にあったのが〈さかいやスポーツ シューズ館〉。その名の通り登山靴だけを扱う専門店で、店内には靴、靴、靴!何をどう選んでいいのか途方に暮れていると、店員さんが声をかけてくれた。

「どんな登山を予定していますか?」「え〜と、とりあえず初心者で、都内近郊の日帰り登山を……」と返すと、「将来的には1泊登山もやってみたいですか?」と店員さん。

なんだかカウンセリングみたいだ。正直、来週に迫った初登山のことで頭がいっぱいで、将来のことなんて考えていなかった。でもいつかは山小屋泊の山歩きもしてみたいな……。「だとしたらハイキング用より少しランクの高いシューズを選んでおくと長く使えますよ」と、何足か見繕ってくれた。

平地ならソールの柔らかい靴は疲れにくいが、悪路や岩場が増える2000m以上の山を歩くなら多少硬めのソールの方が安定して疲れにくいそう。さらに万が一バランスを崩しても足首をホールドし、捻挫などを防いでくれるミッドカットのモデルがいいとのこと。

次は足のサイズの計測。なんと左右の大きさが0.8cmほど違っていた!幅も広めということで、ワイズが狭い海外モデルは合わないという判定に。最後に自分の足の傾向に合うモデルを試着して、8㎏ほどの荷物が入ったバックパックを背負って模擬岩場を上り下り。こんな念入りな試着を重ねて理想の一足を探してくれるなんて、さすが専門店だ。

「デザインも大切ですが、長距離を歩く登山では少しの違和感が大きなストレスになりますから」と店員さん。「登山靴は高価ですから、おいそれと買い替えられませんしね」とのことで、大納得。足にぴったりフィットする靴が見つかったら、初登山への不安が和らいできたぞ。

山気分を高める喫茶店へ

喫茶 穂高

紅葉や桜、橘など季節ごとの表情を見せる木々が植えられた小さな庭が見える窓際が特等席。

次は御茶ノ水駅まで移動して、先輩おすすめの喫茶店〈穂高〉へ。店には山の絵や版画が飾られていて、書棚には古い山岳書籍が並ぶ。山小屋(行ったことないけど)みたいな雰囲気で、なんだかいい。店主いわく、1955年の創業以来、近隣大学の山岳部の学生や、近くに事務所を構えていた日本山岳会の会員など、多くの山好きたちが通う店なのだそう。

常連の中には、山を愛した随筆家・串田孫一もいたとか。窓際の席で山の本を開いていると、自分も山男の仲間入りをしたような気分になる。北アルプスや八ヶ岳、いつか登ってみたいなあ……。

細かいギアは、専門店で

石井スポーツ 登山本店

品揃えの多さに物欲が爆発!憧れの山ごはん作りに欠かせないコッヘルやストーブも欲しい!

山への憧れが高まったところで、買い物の続きへ。〈石井スポーツ 登山本店〉は山登り、アウトドアアイテムが揃う専門店。広い店内にはバックパックやウェアなど、膨大な量の商品があって、またしても途方に暮れる。

「ご予算はどれくらいですか?」。ここでまた救世主の店員さんが登場!登山道具はその機能の高さもあって値が張る。レインウェア上下を揃えるだけで軽く4万、5万はかかると聞いて焦る……。

「一気に揃える必要はないですよ。もしご友人などに借りたり、レンタルサービスを利用できるなら最初はそうして、徐々に自分に合ったものを揃えていけばいいです」と店員さん。なるほど、借りるという手もあるのか!

そんな中、意外と重要なのが下着とのアドバイスをもらう。汗を大量にかいてもすぐ乾き、汗冷えを防いでくれる下着はマストアイテムとのことで、確かにこれを借りるのは抵抗がある……。そのほかのウェアは友人に借りられそうなので、残った予算で、山でコーヒーを楽しむためのコッヘルとストーブ、ガス缶を買うことに。山をより楽しくしてくれるアイテムも大切だ。

「山に登ってみると、どんなグッズが必要か、だんだんわかってきます。そうしたらまたゆっくり買い物に来てください」と店員さん。山の買い物に焦りは禁物なのだ。

自然を知れば、もっと楽しめる

鳥海書房

野草や鳥類、昆虫、釣り、古生物、山など、分類は40種以上。山の写真集やエッセイなども揃う。

最後に立ち寄ったのは自然にまつわる古書を専門に扱う〈鳥海書房〉。山はもちろん、植物や動物、釣りなど、自然科学関連の専門書が並ぶ。今まで「山を登る」ことだけに意識が向いていたけど、その楽しみは奥深くて、知的好奇心を持っていれば、見える景色は格段に広がる。

渓流には魚が、足元には可憐な花が、そして空には鳥が。山ってすごく豊かな場所なんだな。手描きのイラストによる古い植物図鑑を見ていたら、山の花の絵を描いてみたくなった。そんなふうに山歩きを楽しむのもいい。来週の登山にはスケッチブックを持っていこうと決めた。

ネットで簡単に山道具を揃えることもできたけど、神保町に来て良かった。自然を愛する先輩たちと話をして、自分がどんなふうに山を楽しみたいのか、わかった気がしたから。それを知って初めて自分に合った山の準備ができるのかもしれない。神保町の先輩たちに感謝。これからも末長くご指導お願いします!