サブスクやデジタル配信には
レコードやCDとは違う楽しみがある
小室敬幸
クラシックもほかのジャンルの音楽と同じく、“サブスクで”聴くということが一般的になりましたよね。二大サービスのSpotifyとApple Musicでも、クラシックの音源は大量に配信されています。
白沢達生
クラシックの入口として最適なんじゃないかと思います。クラシックを聴こうと思っていなくても、アプリをいじっているうちに、プレイリストの中の一曲として出会ったりしますから。
小室
実際、サブスクが定着したことで、クラシックが聴かれる機会が増えたそうです。鑑賞用というよりは、作業用BGMや睡眠導入剤代わり、中には子守用にクラシックのプレイリストが再生されている。著名人やフォローしている人のプレイリストが楽しめるのも魅力ですよね。
白沢
私もプレイリストを作って公開しているんですけど、Spotifyって無料だと曲順通りに再生されなかったり、途中で広告が入ったりする。だから「新聞を購読するより安いんだし、SpotifyかApple Musicに課金しちゃおうよ!」ってよく言っているんです。そのお金は、きちんとアーティストに分配されますし。
小室
でも、この二大サービスのどちらがおすすめなんでしょう?
白沢
個人的にはSpotifyを推しています。Apple Musicに限らず、ほかのサービスだと適切な検索語を入力しないと何も表示されない……なんてことも。でもSpotifyなら検索窓に1字入力するごとに少しずつ結果が絞られていくので、知識がなくても何かには辿り着けるんです。レコードショップで棚を眺めて聴きたいものを探す感覚に近い。
小室
ところが曲名で検索して「ソング」ごとに並べると、表示される情報が少なくて選びづらかったりもする。逆にApple Musicは演奏者名とジャケット画像が表示されるから“ジャケ買い”ができる。どちらも一長一短で悩ましいんですよね……。
白沢
あと実は、これら2つのサブスクが日本に上陸する前の2005年からクラシックに特化したサブスク、ナクソス・ミュージック・ライブラリーの日本版が誕生していて、今も音大生や演奏家、そして業界人には定番の存在なんです。
小室
日本語で検索しやすかったり、データベースとしても優秀だったりするので、ほかで代わりが利かないんですよ。あと、いわゆるサブスクとは違いますが、コンサートの配信も無料・有料を問わず、数多く行われていますね。
白沢
昔からヨーロッパには放送局所属のオーケストラがたくさんあって、インターネットの普及とともに、オケの演奏がネットラジオで配信されるようになりました。無料の放送も多いので、熱心に追いかけているファンも少なくありません。
小室
現在のような映像付きの配信については、国際音楽コンクールの配信が先駆けになったんですよね。人気ピアニストの辻井伸行さんが出場した05年のショパンコンクールは、私もリアルタイムでチェックしていました。こうした演奏会配信の現在形で、最高峰に位置するのがベルリン・フィル デジタル・コンサートホール。世界一のオーケストラの演奏会が、自宅にいながら最高の画質・音質で楽しめます。
白沢
こういう海外発のものって日本でローンチする時に、日本語化がイマイチだったりするのですが、これはバッチリ。最新のライブを観るもよし、過去のアーカイブを掘るもよし。初めての方でも使いやすいと思います。海外の一流公演が楽しめるものとしてはほかに、METライブビューイングもありますね。
小室
いろんなジャンルでライブビューイングが流行ってますけど、クラシックではこれが代表的。全国19ヵ所の映画館で、世界最高峰のオペラが大迫力で楽しめるのはもちろん、幕間の休憩中にはMCが舞台裏で出演者やスタッフにインタビューするんですけど、それがメチャクチャ面白い。自然と見どころがわかるので、オペラ入門にもうってつけ。
白沢
ライブビューイングだからこそできることを最大限に生かしてますよね。配信はレコードやCDの代替物ではなく、配信ならではの魅力や楽しみ方が共存しているんです。
香港のレコード会社ナクソスが立ち上げたクラシックに特化したサブスク。自社音源のみならず、1,000近いレーベルから約200万曲が配信されている。
かつてカラヤンが芸術監督を務めた世界最高のオーケストラが、最新のライブと過去のアーカイブをハイレゾで配信するサービス。近年の映像は4Kで楽しめる。
世界三大歌劇場の一つ、米国のメトロポリタン歌劇場の最新公演を映画館で楽しめる。5.1chサラウンドの音響と10台以上のカメラを駆使した映像が売り。