すべての動物たちが先生!坂本美雨親子が〈京都市動物園〉で楽しく学ぶ
「ねえママ、ハリネズミはネズミじゃなくて、モグラの仲間なんだって」「そうなの⁉」。動物園を回るうち、母娘はどんどん動物のことに詳しくなっていく。坂本美雨さんと小学校1年生のなまこちゃん(愛称)は大の動物好き。初めて訪れる〈京都市動物園〉を楽しみにしていた。なまこちゃんは相棒のハリネズミのぬいぐるみ(ハリちゃん)を小脇に抱えてスキップしている。
動物を見るたびに雑学を増やしていくなまこちゃん。「いつもは早く次の動物が見たくてサーッと回ってしまうのですが、今日はじっくり観察してますね」と、美雨さんも驚いている。
その理由は、なまこちゃんが手にしている紙。観察した動物の名前を調べて記入していく「どうぶつビンゴ」や、様々な糞の写真を見てどの動物のものかを当てる「ウンチメンタルジャーニー」など、〈京都市動物園〉では年齢や興味に合わせて選べる多様なワークシートを提供。個人でもホームページから印刷して使えるということで、なまこちゃんはたくさん準備してきたのだ。
ミーアキャットの展示場前では、2本足で立つ姿に美雨さんは「カワイイ!」と大興奮。その傍らでなまこちゃんは、「なんで立ってキョロキョロしているんだろう?」と、色々な角度から観察する。動物の行動の謎を解いていく「動物園からの挑戦状」ワークシートに夢中なのだ。
「何か探しているのかな?」「暖かい場所を探しているのかも……」「そうかも!」。美雨さんも一緒に「なぜ?」を考える。最後に解説板を見て答え合わせ。なまこちゃんの大人顔負けの動物雑学は、こんな楽しいやりとりから得たものだった。
見て、読んで、謎を解く。ワークシートで探偵気分!
無類のネコ好き親子ゆえネコ科動物ゾーンは大興奮!
生まれたときから愛猫の“サバ美”と育ってきたなまこちゃん。同じネコ科でも巨大なトラを前に最初は怖がっていたが、「ほら、サバ美と同じように手をペロペロしてるよ」との美雨さんの言葉に、一気に距離が縮まった。生肉を豪快に食べる様子を見て、「トラはかぶりつきが、すごい」と、ワークシートの余白に書き込む。
「ふれあい広場」でヒツジにタッチ。
「顔だけ黒いね」など、「カワイイ」だけでなく、動物の体の特徴についても話す美雨さん。
後足で立つミーアキャット。
ミーアキャットが高いところでキョロキョロするのは、なぜ?
テンジクネズミがお気に入り。
もふもふのテンジクネズミが特にお気に入り。
タヌキのような見た目のイヌ・ヤブイヌ
ビンゴの答えを探して、知らなかった動物たちにたくさん出会えた。タヌキのような見た目の原始的なイヌ・ヤブイヌ
アジアゾウを観察。
アジアゾウの鼻の動かし方や群れとの挨拶の様子も熱心に観察した。
赤と青の鮮やかな顔を持つマンドリルの性別の見分け方。
マンドリルのオス or メスは顔で見分けられる?
キリンの知られざる体の秘密。
キリンのおっぱいはどこにいくつある?
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いつもはちょっと怖い展示にも挑戦!
暗い部屋で夜行性の動物や爬虫類を展示する「熱帯動物館」。「怖いから入らない!」と涙目になりながらも、ビンゴの答えがあると知って潜入したなまこちゃん。大きな目のショウガラゴの意外なかわいさに目覚め、大きなボールニシキヘビとの撮影にも挑戦!
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オオサンショウウオと背比べ。
「なんか気持ち悪いかも〜」と言いつつも、オオサンショウウオと背比べ。身長が同じとわかって、一気に親近感が湧いた様子。
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ビンゴ最後の動物、見っけ!
名前は「キンクロハジロ」。「あと1個なのに……」。ビンゴ完成を諦めかけていたその時、探していた鳥が!「名前、調べよう!」。母に促されて解説板を探すなまこちゃん。普段ならスルーしそうな目立たない動物が、この日一番記憶に残ったみたい。
「カワイイ!」を超えて、動物から学ぶ楽しさを伝える
〈京都市動物園〉は1903年、上野動物園に次いで国内で2番目に開園した歴史ある園だ。京都の中心地という立地もあり、地元で愛されてきた。2015年のリニューアルを機に生き物にまつわる書籍を集めた利用無料の図書館を併設するなど、「学ぶ」ことにも重点を置いている。その役割の中核を成すのが2013年に京都大学野生動物研究センターと連携して開設された〈生き物・学び・研究センター〉だ。
「子供への教育プログラムの開発や提供はもちろん、飼育動物の行動や生理に関する基礎研究も行っています。その成果は飼育現場に還元するとともに、園内で開催する無料のトークイベントで市民の方にもわかりやすくお伝えしています」とは、長年ゴリラの飼育を担当してきた長尾充徳さん。園の人気者であるニシゴリラ家族の長男・ゲンタロウの人工保育を担当し、研究論文や子供向けの書籍を発表してきた。
「研究センターには4人の博士が所属し、飼育員の中にも大学で専門分野を学んだ人が多い。解説板だけでは伝えきれない動物の不思議さ、面白さを、深い知識を持ったスタッフが翻訳して伝えていくことも動物園の大切な役割です」(長尾さん)
園を回り終え、図書館で本を開くなまこちゃんに感想を聞くと、「いつもは怖くて入れない暗い部屋(夜行性動物エリア)も、ビンゴを完成させたくて入れた。面白かった!」とのこと。「ビンゴパワーだね」と美雨さんは笑いつつ、こう続けた。
「子供って不思議で、ゲーム感覚で見聞きしたことでも、ある日ふと、“ゴリラのお父さんは家族みんなのことをいつも見ていたね”なんて、大人がすっかり忘れていたことを話すんです。だからきっと、今日見た動物の姿も心のどこかに刻まれているんだと思います。
環境問題など今はわからなくても、それがいつか、今日見たゴリラの家族とリンクして、もっと知りたい、何か行動を起こしたいと思う日が来るかもしれない。そういう種をたくさん持って大きくなってほしい。子供が自発的に動物のことを知りたくなるような手助けをそっとしてくれる動物園が増えたら、すごくいいですね」
レッサーパンダのプリクラを撮ってご満悦のなまこちゃん。「忘れたらダメだからね」と見せてくれたメモ帳には「ヤマアラシはネズミのなかま」と、大きく書かれていた。