空いた建物を低コスト、短期間で単身者の住まいに転用
早婚、皆婚社会から晩婚、非婚社会へ。中国の家族像はいま激変期にある。公的統計データによれば単身者人口はすでに2億人超。だが単身者用住宅はまだ極めて少なく、社会の緊急課題の一つだ。
中国を拠点に活躍する日本人建築家、青山周平が進める「BOXコニュニティ」(中国語名:盒子社区)は、その解決をめざすプロジェクトだ。地域の空いている建物に“BOX”を置いて、単身者用の住まいに転用する。第1弾は2019年、中国の南部、福建省泉州市で起動した。かつて野菜卸売り場だった建物の2階、3階に約6㎡の可動式BOXを設置。このBOXが主に就寝などのプライベート居住空間になり、その周りに公共生活空間としてキッチン、バス、トイレなどを配備する。1階はオープンエリアとして、カフェ、バー、会議、イベントスペースなどに。2023年秋までに13個のBOXが設置され、コロナ禍にもかかわらず1000人以上の若者が短長期に暮らした。BOXはこの後も40個前後まで増える予定。同プロジェクトは泉州に続き南京、広州、深圳、上海など中国の各地で展開しつつある。
実はこのプロジェクト、もともとは2018年、北京で開催された未来の住宅をめぐる展示会「CHINA HOUSE VISION」で新居住コンセプトとして展示されたものだった。翌年には協働者の出現により実現化となり、電気や空調システムの供給、BOXの重量やコストのコントロール、誰でも簡易に組み立てられる構築法の研究など、新たに生まれた課題もクリアしてきた。青山は長期的、全国的に展開するというヴィジョンのもと、現在複数の同志と共に〈四百盒子科技有限公司〉を設立。自ら施主になりながら現場の指揮をとっている。昨今の中国では産業構造の変化により、多数の工場や商業施設が操業・運営を停止。多くの空きスペースが生まれ社会課題になっている。それらの空いた空間を生かし、低コスト、短期間で単身者向けに転用できる同プロジェクトは、ディヴェロッパーや政府関係者からの評価が非常に高いという。またこの新しい居住方式は、従来の家族像とは異なる新しいコミュニティ像の創造にもつながり、未来の暮らしのヒントを中国社会に伝えている。