集約農業からエコツーリズムへ
人の手により汚染され、本来の生態系が損なわれてしまった農牧地や河川、海など。それらをできる限り自然に近い状態に戻す「リワイルディング」(再野生化)の試みが、ムーブメントになりつつある。現在、イギリス国内ではこうしたプロジェクトが70ほど進行中だ。野草の種を蒔いたり、木を植えたり、野生動物を放つなどしながら、未来につなげるための草の根的な活動が各地で進んでいる。
慈善団体やボランティアに頼ることの多い活動だが、政府からの補助金が出る制度も開始になったところ。ただし長期的な試みのため、個人でも団体でもそれが収入につながらないと継続は難しい。そこで、リワイルディングをツーリズムにつなげる試みも始まっている。
『英国貴族、領地を野生に戻す』(日本語訳名)の著書もあるイザベラ・トゥリーは、そんなリワイルディングの先駆的存在だ。貴族出身の夫と経営するKnepp(ネップ)は、1400ヘクタールある領地の農耕作地をリワイルド化したもの。ここでは領地のメンテナンスは、エコシステムのエンジニアとも言われるバイソンや、洪水の防止や川の再生に貢献するビーバーなどの動物たちに極力任せている。一方、キャンプ施設や各種のサファリ体験などを提供する観光事業で、農業よりも利益が出る仕組みを構築している。自然と人間が共にサステナブルに共存していくエコツーリズムの一例として、学ぶところは多い。