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世界からお届け!SDGs通信パリ編。廃棄予定のパンを救い、ビールとして生まれ変わらせるスタートアップ

毎号、世界中から届いた旬の話題を紹介しているBRUTUS本誌の「ET TU, BRUTE? CITY」から出張企画。世界中の約30都市から、今一番ホットなSDGsに関する取り組みをお届けします。今回はパリから!

text: Motoko Kuroki / edit: Hiroko Yabuki

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売れ残りのパンを回収・リサイクルして、醸造されるクラフトビール〈ガスペール〉

フランス語に「もったいない」という言葉はないが、相応する考え方はもちろん存在する。たとえば、「アンチ ガスピヤージュ(=無駄にすること)」を縮めた「アンチ ガスピ」。2019年、仏北部の街アミアンで、まさに「アンチ ガスピ」なビールが生まれた。ユーゴ・ロードレンが立ち上げた〈ガスペール〉だ。

ブーランジェリーに協力を仰ぎ、廃棄予定の商品を回収。醸造に使うモルトに3割をパンに置き替えた。ビール20リットル分で、ゴミ箱行きだったパン約1kgを“救出”したことになるそう。さらに水の節約にもつながるというメリットも。パンにはもともと水分が含まれているため、製造中に使われる水の量は、従来に比べて20リットル樽一つにつき600リットルも少ないのだ。

といっても道のりは平坦だったわけではない。ユーゴとしては「パンの味がするビール」はなんとしても避けたかった。パンの持つ塩味が出ないようにするにはどうすればいいか。「アンチ ガスピ」というラベルがなくても愛される飲み心地をどうつくるか。試行錯誤は約1年続き、現在販売されている「アメリカン ペール エール」のレシピが完成した。

軽やかな飲み口に、際立つ苦味とほんのり香る柑橘。〈ガスペール〉の「アメリカン ペール エール」は、お酒の楽しみとサステナビリティの両方を叶えてくれる。小売価格は2.9ユーロで、カフェやレストランでの取り扱いに加え、パリの食料品店などでの販売も増加中だ。なお〈ガスペール〉でも余ってしまったパンは、女性の社会復帰支援団体へ送られパン粉などに作り変えられるそう。新時代のクラフトビールは、あくまで地球の未来に向き合っていく。

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