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世界からお届け!SDGs通信 メキシコシティ編。プールに花が咲き、魚が泳ぐ、自然を愛するホテル

毎号、世界中から届いた旬の話題を紹介しているBRUTUS本誌の「ET TU, BRUTE? CITY」から出張企画。世界中の約30都市から、今一番ホットなSDGsに関する取り組みをお届けします。今回はメキシコシティから!

text: Miho Nagaya / edit: Hiroko Yabuki

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都会からすぐの山間で、田舎暮らしを体験し、環境について考える

メキシコシティから車で1時間ほどにある、深い山々に囲まれるメキシコ州マリナルコ。15世紀建立の重要な遺跡もあることから、気軽に行ける観光地として人気がある。同所で、とりわけエシカルなホテルが〈Flora y Fauna Hotel Rural〉だ。オーナーのマリア・デル・マール・ペレス(通称マラ)は、生まれ育ったメキシコシティから同地に移って14年。パンデミック中の2021年9月よりホテルの運営を始めた。

周囲の生態系を邪魔しないように客室には4つのコテージのみを建設。敷地内には菜園もあり、併設のレストランではローカルの新鮮な素材を使った料理を提供する。ソーラーパネルにより、60%の消費電力を太陽光でカバーし、バイオガス発生装置による汚水処理施設も持つ。リサイクルされた水は菜園以外の庭の植物への水やりなどに使用している。そしてこのホテルのプールが斬新だ。なんと金魚やメダカが泳ぎ、睡蓮や水草が植っている。

「マリナルコは水が豊かな地ではないけれど、メキシコのカリブ海への愛やセノーテ(ユカタン半島の石灰岩地帯の陥没穴に地下水が溜まった天然の井戸)へのオマージュのために、プールをつくるアイデアが浮かんだの。生命力にあふれ、化学物質のない水の中で泳ぐことができる」と語るマラ。水草、砂、微生物がもたらすホメオスタシスが浄化システムとなり、プールの余分なミネラル分や藻を取り除き、水や空気まできれいにする役割を果たす。慌ただしい日常を忘れて、自然のなかでリラックスするために訪れる宿泊客たちからも好評だ。

「世界の他の場所同様に、メキシコでも土地開発が進み、環境破壊は進んでいるけれど、それを改善する活動は盛んになっている。ただ、その背景に、エコロジーが多くの政党に利用されるケースが多いのが闇の部分だと思う。でも、メキシコの人々には古代からのコスモビジョンから、自然を愛し、敬うことがDNAにあるはず。だからこそ、私たちのホテルをさらにサステイナブルにしていき、宿泊客ひとりひとりの意識に、種を蒔きたい。住処である地球を傷つけてきた私たちが、これからできることは何かを一緒に考え、変えていきたいの」

〈Flora y Fauna Hotel Rural〉の、花が咲き、魚が泳ぐプールには、マラのそんな願いが込められているのだ。

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