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世界からお届け!SDGs通信 メキシコシティ編。シニア世代の心にあらたな扉を開く劇団

毎号、世界中から届いた旬の話題を紹介しているBRUTUS本誌の「ET TU, BRUTE? CITY」から出張企画。世界中の約30都市から、今一番ホットなSDGsに関する取り組みをお届けします。今回はメキシコシティから!

text: Miho Nagaya / edit: Hiroko Yabuki

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メキシコ社会で忘れられがちな、高齢者のケアを演劇の力で実現

2023年の国勢調査によれば、メキシコの60歳以上の割合は人口の14%と日本の約29%よりは低いが、年々増加の傾向にある。だが、その文化・芸術的な支援は青少年向けに集中し、高齢者たちは重視されてこなかった。そんな状況に疑問を持ったのが、2017年にミチョアカン州で結成された劇団〈Córvido Teatro〉だ。

政府や教育機関による青少年向けの演劇ワークショップに携わってきた同劇団。受講した子どもたちが人前で話せるようになったり、精神的に安定する成果を得たことが、高齢者にも役立つのではないかと考えた。

「今まであった高齢者向けワークショップのほとんどが、“お遊戯”のたぐいで、高齢者を子ども扱いするようなものだった。私たちのワークショップは、参加者が自己と向き合えて、他者との共生をはかるもの。つまりは、演劇を構成する要素を取り入れたものなんだ。準備体操や発声もあるし、アートや、テキスト作りのような文化的な面もあり、心身ともにフル活用できる。そこから、高齢者たちが自らの創造力や可能性に気が付いたりもする」。代表のディエゴ・モンテロはそう語る。

これまでに政府やNGOと提携しながら、6つの高齢者向けワークショップを国内各地で行ってきた。そんな経験から、高齢者たちに演劇を身近に感じてもらおうと2019年に制作されたのが、「30+1 Obra para una actríz y un radio(一人の俳優とひとつのラジオのための演劇)」だ。同作品は2023年まで全国各地で公演された。清掃業を引退した一人暮らしの75歳の女性を主人公にして、彼女が老いと向き合い、若い頃のノスタルジーを抱えながらも、明日へと踏み出す姿を描いている。上演にはワークショップの受講者たちや、高齢者施設からの団体が観劇に訪れたが、それだけではなく世代を超えた観客に共感を呼んだ。演劇の力は障壁を取り払い、豊かなコミュニティづくりに貢献するのだ。

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