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世界からお届け!SDGs通信 パリ編。南仏「カマルグの白い馬」を守り、共生し続ける牧夫たち

毎号、世界中から届いた旬の話題を紹介しているBRUTUS本誌の「ET TU, BRUTE? CITY」から出張企画。世界中の約30都市から、今一番ホットなSDGsに関する取り組みをお届けします。今回はパリから!

text: Motoko Kuroki / edit: Hiroko Yabuki

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伝統的な飼育法に支えられ、半野生で生きるフランス固有種・カマルグ馬

プロヴァンス地方、ローヌ川と地中海に囲まれた三角州地帯カマルグ。この地が育む豊かな自然の中を駆け回るのが、カマルグ馬だ。起源は先史時代にまで遡れるという古来種で、明るい灰色から白の被毛が美しい。種として公式に認定されたのは1978年のこと。

「カマルグ馬の今日での役割は、まずは牧畜でしょうか。牛の群れを率いる牧夫はカマルグ馬に騎乗します」と、カマルグ馬育種家協会のオーレリアンが話してくれた。白い馬たちはそのほか、競技馬としての面も持っているという。と言っても、競馬や闘牛とは異なり、牧牛を動かすのに必要な技術を競うものだ。

そんな馬と人との関わりは、「マナド」に集約されている。マナドとは、馬たちが生きる広大な野外牧場のこと。カマルグ馬をユニークな存在たらしめる伝統だ。14世紀にはすでにマナドシステムは存在していたとされ、現在カマルグには100を超えるマナドがある。各マナドでは、ギャルディアン(英語のガーディアン)が馬の世話や競技用訓練を行う。最低4頭の繁殖牡馬の常駐、1ブロックは20ヘクタール以上で設定……などがマナドの基準。現在では、マナド育ちの馬だけが「カマルグ馬」とされるという。敷地内では完全放牧が義務付けられていて、ときに草上、ときに波打ち際で、白い鬣(たてがみ)を揺らして走る馬の群れが見られる。

カマルグは湿地帯ならではの特殊な植物相・動物相を持ち、1977年にはユネスコが「カマルグ生物圏保護区」として指定。馬たちは貴重な生態系の一環でもあり、カマルグ文化の一部でもある。地元の伝統が守る「カマルグの白い馬」は、自然と人の共生の象徴かもしれない。

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