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シネマコンシェルジュの映画監督論:町山智浩「子供の頃の心の痛みを表現し続ける監督に、グッとくる。」

巨匠から新鋭まで、素晴らしい監督たちが次々と登場する今、観るべき監督を知るには、やっぱり信頼できる映画通の後ろ盾が欲しいもの。独自の審美眼で映画シーンを追いかけ続ける30人に頼ることに。

Illustration: Thimoko Horiguchi / Text: Yoko Hasada, Aiko Iijima, Saki Miyahara, Konomi Sasaki / Edit&Text: Emi Fukushima

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映画好き町山智浩へ7つの質問

Q1

あの監督の虜になった名シーンは?

町山智浩

ブライアン・デ・パルマ監督です。『ファントム・オブ・パラダイス』のめくるめく映像テクニックと胸を引き裂かれるようなラストシーンに号泣し、以来デ・パルマ作品を追いかけるように。

Q2

好きな監督のベスト作品は?

町山智浩

監督が「これが私だ」とはらわたをさらしたような作品に惹かれます。フランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』、フェデリコ・フェリーニの『8½』などです。

Q3

好きな監督のイマイチだった作品は?

町山智浩

監督の個人的な痛みが反映されていない映画です。

Q4

最近になって魅力的に感じるようになった監督は?

町山智浩

イングマール・ベルイマンとジャン=リュック・ゴダール。昔はただ難解な映画だと思っていましたが、撮影当時の彼らの家族や恋人との関係を知り、どれも赤裸々に素顔をさらした映画だったのだと共感しました。

Q5

あの監督に撮ってほしい、意外なテーマは?

町山智浩

漫画家の坂口尚がナチスに対するユーゴスラビアの抵抗を描いた劇画『石の花』を、片渕須直監督にアニメ化してほしいです。

Q6

個人的に今気になっている監督は?

町山智浩

チャーリー・カウフマンとケネス・ロナーガン。2人とも過剰な自意識に閉じこもる悲劇を自嘲的に描くコメディを作り続けています。まったく救いがないところがいいんです。

Q7

将来が楽しみな次世代の監督は?

町山智浩

トレイ・エドワード・シュルツ監督。作品には、彼自身の毒になった実父と、キリスト教福音派の継父との葛藤が描かれており、その切実さが胸にしみます。

2010年以降の「この監督のこの一本」。
マーティン・スコセッシの『沈黙 -サイレンス-』

弱い自分を投影し歴史を動かした、巨匠の真骨頂。

徳川幕府の切支丹弾圧で捕らえられた修道士を描く遠藤周作の小説の映画化です。モデルになった修道士ジュゼッペ・キアラは拷問の果てにキリスト教を棄てた、いわゆる転び伴天連で、そのためにローマン・カトリック教会から破門されました。遠藤周作も、監督のマーティン・スコセッシもカトリックですが、2人とも、この修道士に同情しました。2人とも子供の頃から体が弱かったので、拷問されたら自分も決して耐えられないと思ったのです。

スコセッシは主人公に、神父を目指して挫折した自分を重ね、さらに赤狩りに負けて裏切り者と呼ばれた師エリア・カザンを重ねています。スコセッシは、ハリウッドから追放されていたカザンが亡くなる直前に映画界に働きかけてアカデミー功労賞を与え、師の名誉を復権させました。この『沈黙』でも弾圧に屈した修道士の優しさを描き、それをフランシスコ教皇に観せ、360年ぶりに赦しを得ました。個人の思いが映画を通して歴史を動かした偉業だと思います。日本で撮影許可が下りなかった体験もイッセー尾形と浅野忠信演じる役人の意地悪さに反映されています。

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