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魚たちと仲良く共同生活⁉︎お客を呼び込む、熱帯魚店の招き猫たち

猫は人ではなく、場所につくという。「看板猫」という言葉もあるように、猫はただそこにいるだけで、その場に新しい“何か”を運んできてくれる不思議な存在だ。創業以来50年以上地元の人に愛される神奈川県横須賀市の熱帯魚店で暮らす2匹の猫の日常。

本記事も掲載されている、BRUTUS特別編集 増補改訂版 「猫だもの。」は、2023年4月11日発売です!

photo: Kasane Nogawa / text & edit: Yuriko Kobayashi

熱帯魚店の看板猫

鮮やかな熱帯魚が泳ぐ水槽が所狭しと並ぶ熱帯魚店。その傍らで猫が毛繕いする。なかなかデンジャラスな光景だが、神奈川県横須賀市の〈中央水族館〉ではこれが日常。ここで暮らす2匹の猫、ブータンときんは、どちらも魚には手を出すことなく、看板猫としてお客を迎えている。

「ブータンは近所の公園で暮らす外猫でしたが、いつの間にか店に住むように。その数年後、きんは仔猫のときに倉庫に迷い込んできました。きんは鳥やトカゲなど狩りが上手ですが、店の魚には手を出しません。悪さをしないブータンを見て育ったからかもしれませんね」とは店主。魚を扱う店で猫を飼うことに抵抗はなかったのかと尋ねると、「猫がいると、のんびりした気持ちになれるじゃない。自由気ままに生きていいんだってこの子たちから教えてもらっているんです」と、目を細める。

お店の猫、きん
6歳のオス、きんは店の狭い通路を元気よく歩き回ってお客に挨拶。

自由気ままに生きていい。おおらかさをくれた相棒

横須賀中央駅近くで50年以上この店を営む店主。20代の頃は遠洋マグロ漁船に乗り、漁師として数ヵ月間海に出る暮らしを送っていたという。

「魚を獲るより、魚を生かす方がいいなと思って、この仕事を始めたの。マグロの方が儲かったけど、毎日お客さんと話して、楽しく商売する方がいいじゃない。なあ、きん」

ほのぼのとした空気のおかげか、店には若いカップルや子供連れの家族など様々な人が訪れる。中には猫たちの顔を見に来たついでに魚を観賞していく人も少なくないのだとか。店名の通り、町の小さな水族館のような雰囲気だ。

「今朝ジャガイモをふかしたから、食べていってよ」。そんなこんなで、猫を撫でながら茶飲み話に花が咲き、思わぬ長居をしてしまった。急ぐことなど何もない。そこに猫がいるだけで時間の流れは変わり、おおらかな気持ちが生まれるのだ。

お店の猫、ブータン
先輩猫のブータンは14歳のメス。おっとりした性格で、水槽にもたれかかって昼寝をしていることも。