「家でアイロンがけする時のプレイリストを作っていて、そこにはジャズがいっぱい入ってます。シューッていうスチームの音が合うの」
全部で5時間以上あるんだけど、と笑うミュージシャンのCharaさん。10代の頃にブルーノートで初めてジャズに出会い、理由もわからず涙をこぼした時から今日までずっと、「今の私の感情に合うものを聴く」という付き合い方を続けてきた。だから、ジャズの入口はfeel。
「プレイリストを作るのは、映画に音楽をつけていく感覚に似てる。今、私がアイロンをかけているこの場面に曲を流すなら何がいいのかっていう、生活の劇伴ですね。いいジャズには、鳴らしている人の人生や感情がにじみ出るじゃない?いろんなミュージシャンの感情を劇伴にしながら、アイロンをかけた服が一枚ずつ目の前に積み重なっていくのを眺めてる。誰かに観てもらってなくても楽しい、ジャズが流れるアイロンがけ映画みたいな感じかな」
100曲以上が並ぶそのアイロン・プレイリストを覗いてみると、ブルーノ・メジャー、ヘイリー・ロレン、ペギー・リーにケティ・レスター。「マイルス・デイヴィスに次ぐ21世紀の改革者」と称されるエスペランサ・スポルディングも。
歌詞の意味を知ったうえでインストを聴くのが好き
「エスペランサは、最初に聴いた時から震えました。ダブルベースを弾きながらジャズを歌っちゃうなんて。ものすごく努力して道を切り拓いてきた人はやっぱりカッコいいですね。サラ・ヴォーンやエラ・フィッツジェラルドも、人生の苦悩が歌に出ているところにぐっとくる。エラの『This Girl's in Love With You』を聴くと、タイムスリップして当時のライブに行きたくなります」
歌詞が入口になることも多い。サブスクやライブで出会い、いいなあと思って歌詞の意味を調べ、「だから惹かれたんだな」と納得することもよくあるという。いちばん好きなのは「Someone to Watch Over Me」。私には見守ってくれる人が必要なの、と多くのボーカリストに歌い継がれてきたスタンダードだ。
「リッキー・リー・ジョーンズやエラが歌うバージョンもあって、それぞれにいいのですが、でも、世界一好きなのはキース・ジャレットのインスト。歌詞が好きで、歌詞を知っていて、そのうえでインストを聴くのが好きなんです。詞の情景や思いや、その世界を弾くキースの孤独感までが、ピアノの隙間から立ち上がってくる。感情が全部楽器に乗っかっていて、この人が弾くからリアリティがあるんだと信じられる。それを、こう、一人でシューッってアイロンをかけながら聴いて、思うわけです。人生の苦悩も喜びも全部あるからジャズは素敵なんだなって」