2020年、ある作家たちの思いからリサーチワークは始まった
自宅での突然の来客時、またはアウトドアフィールドにおいて、簡単に収納できて移動もできるテーブルは重宝する。しかし、なかなか欲しいものに出会うのは難しい。そこで美術家やプロダクトデザイナーなどを本業とする作家たちが、「自由に移動できる美しいテーブルを作りたい」という純粋な思いから、職人たちと共にモノづくりを始めた。最初はDIY的に始まったプロジェクトは、リサーチや試作、テストを繰り返し、やがて〈CENTRE〉(センター)というプロジェクトとして結実する。制作者の工房で、リサーチにまつわる秘話や、開発のプロセスについてプロジェクトのキーマンに話を聞いた。
「最初は、在り合わせの材料を集めて、オブジェのような構造物から作り始めました。そこからパイプやロープなど、組み合わせを変化させていって。結果として最もシンプルな構造に辿り着きました」。何の変哲もない身近な素材を使って作られたというプロトタイプの数々。ワイヤーに透明のシートを貼り付けて、テープで留め、一つ一つ手を動かしながら作っていった。折り畳める構造を実現するため、組み合わせや角度、素材に変化を加え、気がつくと膨大な数になっていたという。
トライアンドエラーを繰り返して見えてきたこと
「試作しては大自然の中へと赴き、使って、検証を繰り返しました。この数年間体験してきた予想の出来ない未曾有な出来事が制作に気づきと変化を与えてくれました。冒険やリサーチの過程で出会った仲間たちと語らい、時には火を囲み、食事を囲み、どこにいてもその中心にはテーブルがあったのです」。そこからテーブル制作はさらに進化し、使い手が必要とする機能を追求した数々のプロトタイプが生まれていったという。そして、オーク材の天板と、ステンレスの脚を組み合わせたFOLDING TABLEが完成した。
「このプロジェクトのテーマは”中心”です。世界にとっての“中心”は一体どこにあるのでしょう?私たちは常日頃、美しい景色やおいしい食事、その土地の人に会うため旅に出ます。いつだって中心は目の前にいる人と自分の間にあると感じていて、その瞬間、その中心にこのテーブルが存在するといいなと考えています」。〈CENTRE〉のテーブルは、人と共に移動し、人が集まる場所の中心にふさわしいプロダクトなのだ。
モジュールシステムが備わった、実直で美しいフォルム
「ソファーのサイドテーブルとして、またキャンプ時のダイニングセットなどの用途にピッタリです。例えば家の中では庭やルーフトップ、窓辺の近くに運んだり、部屋の広さに合わせて畳のように複数を組み合わせて拡張できるモジュールの考え方です。屋外ではその時の気候や状況に応じて自由に移動させられる。このローテーブルは、スタイルを決めず人それぞれ自由に扱ってほしいです」。フィールドワークに基づいたアイデアや機能が備わったその佇まいは、どんな空間にも馴染み、永く使い続けていくための実直な出で立ちだ。
テーブル開発のプロセスや実物を体験できる展示
〈CENTRE〉プロジェクト初となる展示は、1974年に吉村順三氏が手掛けた「鎌倉山の家」で開催されることが決まった。海と山が共存する見晴らしの良い緑豊かな場所は、敷地面積約1000㎡の鎌倉山頂上付近にあり、母屋、茶室、ギャラリースペースに分かれている。静かで美しい空間で、展示物とゆったり対峙する体験は格別だ。
この空間は、このテーブルのプロセスや完成した形を実体験するのに相応しい場所だ。今回の展示は、シチュエーションを分けて、プロセスや思想ごと体感できるまたとない機会となる。風光る桜の季節、ひとときだけの展示空間を味わってみよう。