大丈夫、その悲しみはあなたのせいじゃない
少女が自分と同じ年齢の母と出会い、関係を結ぶというプロットがなにより魅力的です。
セリーヌ・シアマ
このアイデアは夢のようにふと思いついたものです。斬新で驚きがあると同時に、とてもシンプルなストーリーだと感じました。古代神話の世界に、すでにこんな話があったんじゃないかと思うくらい。私はそれを娘、母、祖母とつながる女系の物語として描くことにしました。
素晴らしいのは、8歳の少女の心情が、その表情や仕草、そして言葉からありありと伝わってくるところです。少女の心情を観客に伝えるために、脚本を書くうえでどんな点に注意を払いましたか?
シアマ
脚本を書く時に注意しているのは、特に今回はそうでしたが、主人公と観客の心情を結びつけることです。すべての人が子供時代を過ごしてきたわけでしょう?だからそれぞれが持つ過去の体験や記憶が、この物語とつながっていると感じられるように脚本を書いていきました。
多くの人たちが共有できる空間を作ることは大事なことです。1950年代に子供だった人も、2010年代を子供として過ごしてきた人も、あらゆる世代の人たちが自分自身の子供時代を投影できる。そのためにこの物語は時代設定を特定していません。時を旅しながら、それぞれの心の旅、内面的でポエティックな旅ができるようにしたんです。
観客を念頭に置きつつ、本作の脚本を書くことは、あなた自身の子供時代を見つめ直す作業でもあったはずですよね。
シアマ
おっしゃる通り。ここには私の子供時代がいろいろと反映されていて、例えば撮影を行ったのは私が育った町ですし、私はこの森の中で実際に小屋を建てて遊んでいました。
私の祖母とか、自分を取り囲んでいた今は亡き人たちの思い出も投影されています。子供の頃の記憶や気持ちを、私はまったく忘れていなかったので、その時のことを大事にしながらこの作品を作りました。
宮崎駿は少女の演出に秀でている
脚本と同様に、少女たちの生き生きとした姿を捉えた演出も素晴らしかったです。
シアマ
「こんな感情を演じてほしい」と言っても、子供たちにアクターズ・スタジオみたいな演技はできません。こんなリズムで、こう移動して、こんなふうに見つめ合って、というように簡単な言葉を伝えて、子供たちとアイデアを共有していく。すると、自然に演技が出てくるんです。
お互いにアイデアを出し合うごっこ遊びが、子供は好きですからね。棒が一本あれば、魔法の杖になる。そういう子供たちと仕事をするのが私は大好きです。
子供を上手に演出する映画監督は誰かと聞かれて、思い浮かべるのは誰ですか?
シアマ
宮崎駿監督です。宮崎監督は特に少女の演出に秀でていると思うし、本作の演出にあたってもインスピレーションを受けていますね。ほかに印象に残っているのは、『ビッグ』のペニー・マーシャル監督。トム・ハンクスが大人の体で子供を演じている作品ですが、宮崎監督の作品も、子供は真剣に生きているんだということを感じさせてくれるので、そこが好きです。
本作で焦点が当てられるのは、ネリーやその母が抱える悲しみです。それは祖母の死に起因するものですが、それだけではなく、より漠然としたものであることが本作では示唆されています。
シアマ
祖母の死という現在進行形の悲しみに連鎖して、過去のトラウマや、家族の抱えてきた不安と悲しみが浮き彫りになる……その一方でこの作品は子供が前へ進んでいく姿を描いています。不安や悲しみを抱く子供に対して、「大丈夫、それはあなたのせいじゃない」と示したかった。それこそ私の意図していたことです。