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ロックの世界観に完全回帰した〈セリーヌ〉2023WINTERコレクションを、パリの老舗ライブハウスからレポート

完全にロックに回帰した、〈セリーヌ〉2023年ウィンターコレクション。「Paris Syndrome」をテーマに、エディ・スリマンの愛する世界観を余すことなく表現したショーに、多くのミュージシャン、セレブリティなど、オーディエンスが酔いしれた

text: Shoichi Kajino

2023年秋冬の〈CELINE〉はエディ・スリマンの「ロック」回帰が強くうかがえる2本のショーから成り立っている。「Age of Indieness」と「Paris Syndrome」の2本。前者はロサンゼルスのTHE WILTERN、後者はパリのLE PALACE、どちらも老舗のライブ・べニューを舞台に披露されたコレクションであることがそれを象徴的に示しているだろう。

ショーの当日、パリ9区にある老舗ライブハウス「LE PALACE」の前には、噂を聞きつけた多くのオーディエンスが集まった。

エディ・スリマンによる〈CELINE〉、17番目のコレクション「Age of Indieness」(インディーズの時代)は、2022年12月にロサンジェルスのライブ・べニュー THE WILTERN で発表された。かつては自宅とアトリエを構えるほどエディとはゆかりのあったロサンゼルスだが、〈CELINE〉のコレクションを発表する場に選ばれたのはこのコレクションが初めてとなった。

以前エディがこの街でコレクション発表したのが 2016年2月、それが〈サンローラン〉の最後のコレクションだったこともあり、この地での発表に少なからずファンをザワつかせたのも事実だ。2023年秋冬のウィメンズを中心にしたコレクションで、ビデオ・プレゼンテーションでの発表を余儀なくされてきた中、ウィメンズとしては本当に久しぶりのフィジカルでのショーとなった。

Womens “CELINE AT THE WILTERN”

そのせいもあってか、エンディングの演出を見ても最近のエディのコレクションの中では殊更きらびやかな印象があった。しばらく続いていた南仏のゆったりシックなムードとは一線を画して、「Indieness」のスピリットを感じさせるロックなムードが漂う。モデルたちもみんな目力が強い。

トドメを刺すように、その夜のアフター・パーティに登場したのは、イギー・ポップ、ザ・ストロークス、インターポール、ザ・キルズ……まるでフェスのヘッドライナーを並べたようなラインナップだった。

2023年2月、舞台はパリへと戻る。モンマルトルのふもとにある老舗のライブハウスLE PALACEで繰り広げられたエディ・スリマンの〈CELINE〉、18番目のコレクションは「PARIS SYNDROME」と題され、これは2023年秋冬のメンズコレクションにあたる。

LE PALACEといえば1970年代よりパリの夜の社交場として数々のセレブリティが詰めかけることで知られたクラブ、コンサート・ホールである。2018年7月には自身の50歳のバースデーを盛大に祝った際の会場であったことからも分かるように、若い頃から数々の思い出深い夜を過ごしてきたエディにとって非常に愛着のある場所だという。

ORIGINAL SOUNDTRACK FOR CELINE
EXTENDED VERSION OF “ GIRL ” PERFORMED BY SUICIDE
CO-PRODUCED BY JARED ARTAUD
WRITTEN BY ALAN VEGA AND MARTIN REV
PUBLISHERS: SATURN STRIP LTD / REVEGA MUSIC
(P) 1998 REVEGA MUSIC COMPANY UNDER EXCLUSIVE LICENSE TO MUTE RECORDS LTD, A BMG COMPANY
COMMISSIONED & CO-PRODUCED BY HEDI SLIMANE

CASTING, STYLING AND SET DESIGN
HEDI SLIMANE

MAKE-UP ARTIST
AARON DE MEY

HAIR STYLIST
ESTHER LANGHAM

ショー会場には、ピート・ドハーティ、ジャック・ホワイト、フェニックスなど、エディとの旧知のアーティストの顔を見ることができる。さらにホームのパリならでは、あらゆるところにエディの常連セレブリティの顔も見られる。カトリーヌ・ドヌーヴ、キアラ・マストロヤンニ、このLE PALACEのステージを踏んできたエティエンヌ・ダオ、そして故ジェーン・バーキンも姿を見せていた。

コレクションは「PARIS SYNDROME」のタイトルからうかがえるとおり、パリの夜にフォーカスされつつも12月に続いて「Age of Indieness」のムードをまとったルックが目立っていたように思う。エディの得意なステージ・コスチューム。上下レザーのハードなコンビネーション、スキニーのパンツに少し大きめのレザージャケットを羽織るモデルたちは、たいていサングラスをしていて、両手をパンツに突っ込んで不機嫌そうに急ぎ足で走り去っていく。

サウンドトラックがSUICIDE、そしてアフター・パーティではザ・リバティーンズがそのステージに姿を現し、会場を驚かせ熱狂に包んだ。まさに「Indieness」の復興を叫んだ夜のように映る。

エディがクリエイティヴ・ディレクターを務めるようになってから〈CELINE〉はコレクションごとにタイトルが明示されているので、分かりやすいのだけれど、エディの作るコレクションのテーマの中には数シーズンごとにいくつかの象徴的な記号が巡回し反復して登場するということを、多くのフォロワーは知っている。

それはいくつかの都市(地域)だったり、音楽やカルチャーのムードだったり、例えば、パリ、ロンドン、カリフォルニア、南仏、ニューヨーク、パンク、ニューウェイヴ、インディーズ、ゴシック、サイケデリック、サーフ、スケートボード、シネマティックなどの記号的な要素が複合的に絡み合ってテーマをかたちづくり、それらが毎回エディが積み上げてきたラグジュアリーなクチュールへと昇華されていく感じ。

2023年の秋冬をリードする2つのコレクションから読み取れるのは「ロサンゼルス」「パリ」「インディ・ロック」「ステージ」「夜」という具合だろうか。猛々しいギターをかき鳴らす音が似合うコレクションだ。

エディ・スリマンは、彼自身が強く受けてきたカルチャー的影響を臆面もなく何度となく反復することでその純度を高め、時代を先どる地点に投げてくる。その感覚が鋭さを失う様子はまったくない。