『Come Away With Me』Norah Jones(2002年)
何事にも動揺しない精神こそ
最大の才能?
この4月にライヴのベスト・アルバム『…'Til We Meet Again』が出ましたが、よく考えると来年で彼女はデビュー20年になります。いつの間にかそれだけの時間が過ぎていったのです。
ノーラ・ジョーンズは、ブルーノートというジャズの名門レーベルからデビューしたということもあって、当時はジャズ・シンガーのように捉えられることが多かったけれど、僕はそこまでの印象はなくて、もちろんジャズの要素もあるけれど、ブルーズやカントリーなどさまざまな要素がいいバランスで混じり合ってるなと感じていました。
そして彼女のちょっと低めの声とささやくような歌い方は、すでに大人の女性としての魅力を湛えていました。彼女のもう一つの魅力はピアノ。彼女のピアノはとても個性的で、そのサウンドを聴けばノーラ・ジョーンズのピアノだとすぐにわかるほどです。
でも、彼女の最大の才能は、デビュー作が歴史的なメガヒットになったにもかかわらず、有頂天になったりせずにマイペースを崩さなかったところかもしれない。
2作目のアルバムを出した前後に友達のシンガー・ソングライターとリトル・ウィリーズというカントリーのグループを組んで、匿名でニューヨークのダウンタウンの小さなクラブで歌ったり、ピアノがうまいのにしばらくほとんど弾かず、ギターを習い始めて、ライヴでも敢えてギターで歌ったりしていました(後にピアノに戻ったときはよかったぁと思いましたけど)。
デビュー当時はまだ20歳そこそこだったというのに、必要以上に注目されることを避けていたみたいです。売れすぎると過大な期待が寄せられることや作りたい音楽が作りにくくなることを、彼女は理解していたんだと思います。
彼女の強みはやはりピアノと歌で、ソングライターとしては未完成な印象です。でも、例えば「Don't Know Why」を作ったジェシー・ハリス、オススメに選んだ「Turn Me On」を作曲したジョン・D・ラウダーミルクというカントリー系のソングライター、そしてトム・ウェイツからホレス・シルヴァーまで、いい曲を選ぶセンスにはとても恵まれています。
CD-7:「Turn Me On」
「Turn Me On」、私のスイッチを入れてというような意味なんですが、ロマンティックでちょっと色っぽい歌詞です。それを彼女の声で歌われると、聴いている僕にスイッチが入っちゃう。この曲は珍しくカヴァーで、彼女はニーナ・シモーンのヴァージョンで知ったらしい。なるほどと納得しました。