「猫を愛していない、商売にしようとしている人はすぐわかりますよ」
「猫の間で話題になったニュースを、人間の僕が代わりに伝えているだけなんです」
岩井さんは至って真面目だ。彼はコンビで担当するラジオ番組の中で、猫のためのニュースコーナーを持っている。番組の“調査猫”が世界各国の猫たちから収集・選定したホットニュースを、毎週欠かさず報道し続けているのだ。まずは岩井さんの記憶に残るトピックを伺った。
「(1)は猫界を震撼させた最新の研究結果です。猫がぶっとぶために使用していたマタタビに、まさか蚊除けの効果もあったとは。(2)はアニメ好きとしては実写化に反対したいところ。所詮2次元キャラの可愛さに3次元は敵わないんです。あ、でも猫だけは2次元よりも実物の方が絶対かわいいんだよな……」
どうやら岩井さんにとって、猫はこの世で2次元に対抗できる唯一の存在のようだ。
「(3)はタイのニュース。ツケで魚を食べるなんて、粋な美食家みたい。(4)はアメリカから。これ、話題作りに猫を利用している可能性もありますよね。猫が数字を取れるという思惑は撲滅したいです」
猫のコンテンツ力は世界で通用する。その影響力を利用して人間が数字稼ぎをしようものなら、許すわけにはいかない。
「(5)は企業が放送を聴いて現物を3個送ってきてくれて。でも、これでラジオで再度取り上げてほしいというお願いだとしたら広告費として安すぎませんか?ぜひ正式に番組のスポンサーになっていただきたい。(6)はこの番組もお世話になっているTBSラジオなのに僕が呼ばれていないし、(7)も僕にオファーがないのはおかしいです。僕はこの展示を観ているし(お母様と一緒に行ったらしい)、ナンジャタウンにも子供の頃から行っているんです」
そう、岩井さんは憤慨している。猫を扱う企画がある際は、ちゃんと番組に筋を通してもらいたい、と。
「(8)のように猫に見える場所は全国にいくつかあり、番組の聖地に認定しています。(9)はなんでも猫にあやかればいいわけではないという実例ですね。世間は猫の威を借りすぎです。(10)も猫人気に便乗したとしか思えない。猫に頼らないともはや観光客を呼び込めないのでしょう」
岩井さんの指摘は真っ当(⁉)だ。猫がブームとして消費されていく時流に警鐘を鳴らすのは、無類の愛猫家である彼が本当に猫のことを思っているからにほかならない。もちろん猫特集を制作する弊誌にも、その疑念の矛先は向けられる。
「この『BRUTUS』も、ちゃんと猫のために作っていますか?猫を利用して儲けようとしているだけなら、ネコちゃんニュースでしっかり断罪させてもらいますよ」
世間に媚びない「腐り芸」は猫の勇姿にも共通する
岩井さんの実家では溺愛している猫のモネちゃんが暮らしている。動物病院にあった里親募集のチラシがきっかけとなり、岩井家にやってきて早8年。今もモネちゃんのためにたびたび実家に帰るのだが、いまだに良好な関係は築けていないらしい。
「モネの順位付けでは、間違いなく家族の中で僕が最下位。いまだに僕だけ噛まれます。ボール遊びをしようとしてもちゃんと取ってくることなく、途中で捨ててくる。まるで“お前が取ってこい”と言われているようです。そういう従順ではない性格も好きなんですけどね」
テレビでは「腐り芸人」というポジションを築きつつある岩井さん。業界に媚びない姿勢は、どこかモネちゃんに通ずるものがありそうだ。
「自分で腐っているという感覚はないです。ただ自分に正直に、正論を言っているだけで。世間の評判よりも自分の価値観を大事にしたいんです。自由気ままで好き勝手しているという点では、たしかに僕は猫に似ているのかもしれません。逆に相方の澤部(佑)は完全に犬っぽいですね。アイツは人の価値観だけで出来上がっている人間なので(笑)」
業界内にもファンが多く独自のお笑いを貫く岩井さんと、世間への対応力が高く万人に愛される澤部さん。ハライチはまさに猫と犬とが組んだコンビのようだ。
「僕は猫が大好きだけど、まだ猫のことを理解できていない。だって飼い猫すら懐かせられないんですから(笑)。でも僕も熱狂的なファンの人は苦手なので、モネの気持ちはなんとなくわかるんです。やっぱり似た者同士なんでしょうね」