〈mitosaya〉が新たに造ったのは、みんなが使える充填所
江口宏志
この場所は〈mitosaya〉のメンバーの一人が主に食のイベントを開催してきたスペースでした。ところがコロナ禍に入り、「人が集まることに代わる新しいことをできないかな?」と一緒に相談するようになって。これまでにつながってきた人たちとなにかできたらいいなと考え始めたんです。JUNERAYさんもそんな人の一人。
JUNERAY
初めてお会いしたのは、2年ほど前でしたね。〈mitosaya〉と熊本のライフスタイルブランド〈FIL〉が一緒に造っていたノンアルコールドリンク「ASODA」のレシピ開発に誘ってくれて。「あなたの活動は目に余るので」と(笑)。
江口
JUNEさんが書いている「デイリーポータルZ」の記事が面白いと友人に教えてもらって。読んだら、蒸留器を自作したり、ミョウガや大葉でノンアルドリンクを造ったりしているんです。もちろんただの素人ではなく、ソムリエ協会の資格を持っているし、バーテンダーの経験もある。これはいつか追い抜かれてしまうかもと思って(笑)。
JUNE
その時に〈mitosaya〉の薬草園にお邪魔して、いろんなハーブや草花を採ったのは今のレシピ開発にも生かされています。
DIYな工場造り
江口
僕も「ASODA」を通していろいろ学びました。例えば、お酒とノンアルの造り方の違い。お酒は完成に至るまで1年くらいかかる。その点、ノンアルはフレッシュな素材&スピード勝負なところがあります。
JUNE
「ASODA」はレシピ開発から1ヵ月ほどで発売に至りましたね。
江口
どちらが優れている、ということではもちろんないけれど、テンポよくライトにもの作りができることは、お酒を造ってきた僕にとって新たな魅力だと感じました。
JUNE
お酒が苦手な人にとっても、いわゆるソフトドリンク以外の新たな選択肢ができるのは嬉しいことですよ。
江口
そうやってノンアルを造ろうかと思ってはみたものの、いざ工場を造るとなると、やっぱり大変で。というのも、お酒はずるいんですよ。アルコールが入ることで保存性は良くなり、特に蒸留酒は劣化の恐れも少ない。その点、ノンアルの製造にはとても厳格なルールがあって、衛生基準を満たすためにさまざまな機材が必要になる。炭酸飲料を造るのも初めてだったので、設備も使用法も全部勉強して。当初は半年くらいで完成できるかなと思っていたけれど、気がつけばオープンするまで約2年半かかりました。
ドリンクを充填するのは、主に缶です。誰しも馴染みがあるし、軽くて扱いやすく、環境負荷も小さいので。その充填機はアメリカの〈AMERICAN CANNING〉社のものを導入しました。クラフトビールのカルチャーが根づいたアメリカらしく、小さくて小回りが利く優れものです。今回は、製缶業界国内最大手の〈東洋製罐〉の方々に、日本で使いやすいよう、チューニングしていただきました。
旬を生かしたレシピ作り
JUNE
工場造りもさることながら、レシピも気ままに自作するのとは訳が違って難しい。清涼飲料水として販売するものなので、当然使用できる材料にも制限があるんです。それに開発もスピーディ。例えば江口さんからハーブが送られてきて、レシピを考えてサンプルを送り、それを基に相談します。でも、そのハーブの旬は当然ながら永遠には続きません。香りや味わいが良い状態のうちに製品にまで仕上げる必要があるんです。
江口
清涼飲料水を造る大手の会社の場合、まず「こんなものを造ろう」という企画があって、その後に材料を集めるのが通常の流れだと思います。でも〈CAN−PANY〉ではまず「薬草園にこんな草木があった」「知り合いの生産者がおいしい果物を作った」などの材料があって、その後にレシピを考えるんです。今造っているものもおいしいけれど、続ければ一年の旬が見えてきて継続的に製造できるようになるはず。
JUNE
現段階では月に2つ、その時季のオリジナルドリンクを製造販売していく予定です。6月は「GINGER SODA Spring Garden 春の花のジンジャーソーダ」が販売されている予定。華やかな香りのエルダーフラワーと独特の苦味があるオレンジフラワーのハーブティー、ジンジャーシロップとレモン果汁を合わせました。花の香りを楽しみつつ、爽やかに味わえます。
秋にはカルダモンや花椒などを加えたスパイシーなジンジャーソーダを販売する予定です。どちらも〈mitosaya〉と縁深い、高知県にある〈刈谷農園〉で作られている有機栽培のショウガを使用しています。缶は工場の手前に併設する「Drink Bar」でも買えるし、その場でワイングラスに注いでもらって飲むこともできますよ。
江口
ドリンクは、オリジナルはもちろん、いろんな人と一緒に造っていきたいと思っています。第1弾としてクラフトコーラで知られる〈伊良コーラ〉とコラボレーションしました。〈mitosaya〉の蒸留後に残るもろみなどをコーラの原料にして、〈CAN-PANY〉で充填して。工場の内外をスケルトンにしているのも、「こんなふうに一緒に造りませんか?」と呼びかけているくらいのつもりなんです。
造る現場を見てもらえば、イメージも湧きやすいんじゃないかなと。工場では缶はもちろん、ブルワリーパブなどでも使われる樽・ケグの充填もできます。いずれは各地の飲食店などでも飲めるようにしていけたらいいですね。