「カチョエペペはここ数年で“知っている人は知っている”パスタから、“誰もが知っている”パスタになった感がありますね」と、〈ケ ・ パッキア〉の酒井辰也シェフ。開業から14年、アラカルトメニュー中心で、深夜まで営業というスタイルを貫く、イタリアらしく麻布十番らしいトラットリアの厨房を守る2代目料理長だ。
カチョエペペは、開業時からの定番メニューだという。パスタは、〈浅草開化楼〉のトンナレッリをメインに、要望があれば太めのスパゲッティや、ローマのショートパスタ・リガトーニなどでも提供している。
「ある種の中毒性があるらしく、必ずパスタはカチョエペペというお客様が何人かいらっしゃいます」
ローマにて、クラシックカチョエペペと衝撃の出会い
酒井シェフ自身が、カチョエペペのおいしさに目覚めたのは、10年ほど前。ローマで、あるトラットリアを訪れたときだ。
「下町にある〈ダ・フェリーチェ〉という老舗で、トンナレッリが見えないくらい山盛りのチーズがかかっていた。衝撃の旨さでしたね。パスタの半分の量のペコリーノ・ロマーノをかける、チーズと黒胡椒だけのクラシックスタイルでした」
その後、イタリアへ修業に渡り、各地で似たような“だけ”パスタに出会ったという。
「長く働いたボローニャでは、ブーロ・エ・パルミジャーノといって、バターとパルミジャーノ・レッジャーノのパスタが主流でした。トスカーナのほうに行けば、オリーブオイルを使うようになる。核家族化で共働きが増えたり、インターネットが発達したりしたことが理由で、世界中の都市とローカルの料理が均質化しているけれど、今もイタリア人は、自分の暮らす土地が一番で、ほかに興味がない。変わらないな、と安心しますし、イタリアのそういうところが好きですね」
〈ケ ・ パッキア〉のカチョエペペは、ペコリーノ・ロマーノと黒胡椒以外に、少量のバターとパルミジャーノ・レッジャーノを使う。
「ペコリーノは塩気がしっかりしたチーズなので、それだけだと、日本人には味が強すぎる。パルミジャーノは適度に甘味があって、少し加えたほうが味わいに深みが出る。お客様も喜ばれます。作るときは、皿に盛るときに汁気が残るくらいの水分量を意識すると、滑らかな仕上がりになります」