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自然と暮らす、小さな家。居心地のよさを引き継いだ、ヒューマンスケールなヴィラ

森の中で、湖のほとりで。あるいは庭の一角で。自然をすぐそばに感じながら、本当に必要だと思うものを手に、本当に好きなことをして過ごす。そのためにキャビンはある。

photo: Keisuke Fukamizu / text: Yuka Sano / edit: Tami Okano

よい形で次の世代に繋いでいくのが2代目としての役割

〈ヴィラ福村〉栃木県那須郡
設計:宮脇 檀

竣工は1974年。〈ヴィラ福村〉は、栃木県那須町の那須連峰を望む林の中に、かれこれ半世紀近く立っている。大地に刺さった手旗のような、片流れの屋根がつくる鋭角なシルエットが印象的だ。

住宅設計の名手といわれた建築家、宮脇檀が設計した別荘で、「福村」は建て主の名字。現在の持ち主である田中昇さん、由香さん夫婦が、「さあ、どうぞ」とにこやかに案内してくれる室内は、コンクリート打ち放しのハードな外観からは意外なほどに、人肌のような温かな色気がある。

北側の小さな玄関を入って、トイレと風呂の脇の狭い階段を上ると、スイッチが切り替わるみたいに、南に大きく開いた開口部から明るい日差しと木立が目に飛び込んでくる。片流れの屋根の形そのままの、無垢の木で仕上げた天井が山小屋みたいな雰囲気をつくる。

福島・郡山と栃木・宇都宮を拠点にインテリアショップを営む田中さん夫婦は、東日本大震災以降、第3の拠点を探すなかで、売りに出されていた〈ヴィラ福村〉に出会う。購入することに決めてから、家族全員で福村さんにも会いに行った。宮脇檀について、〈ヴィラ福村〉について、知れば知るほど、この建築のよさを多くの人に伝えたいと思うようになったという。

「いまは縁があって私たちの持ち物ですが、よい形で次の世代に繋いでいくのが、2代目としての役割だと思っています」

経年劣化していたところは目立たないように補修して、できるだけ竣工当時の様子に近づけた。コロナ禍の様子を見ながら、時折、一般公開もしている。

設計士でもある由香さんは「熱と風の通り道が、実によく考えられていて感動しました」と言う。夏の南風を利用して、家は風通しをよくすべしと言ったのは宮脇の恩師、吉村順三だが、その教えに深く共感していた宮脇の姿勢が窺える。700坪という広大な敷地の中であればこそ、都会の住宅密集地では思い通りにはいかない理想を実験したのかもしれない。

こまやかだけれど窮屈でなく、すべてが絶妙なヒューマンスケールでできており、まるで体にぴったり合った巣穴のような居心地のよさがある。竣工当時のインテリア写真を見ると、当時もいいけれど、〈ヴィラ福村〉はいい歳のとり方をしたのだなと思う。初代、2代と心ある持ち主に出会ったこの建築の運の強さと、積み重ねた時間の豊かさが感じられる。男前でダンディだったという、宮脇そのもののようだ。