国内の潮流と海外の流行が交わる、韓国のコーヒーシーンの半世紀
今や韓国コーヒー業界の第一人者である〈Fritz Coffee Company〉代表のキム・ビョンギさん。転機は2009年、ソウルで仲間とロースタリーカフェ〈Coffee Libre〉を立ち上げ、おそらく韓国で最初にスペシャルティコーヒーを扱い始めたこと。
「私がそこに至るまでには同郷の先輩の偉業があります。まず1988年にソウルで開業した〈Bohemian〉は、たぶん韓国初のロースタリーカフェ。代表のパク・イチュさんは日本育ちなので、ネル&フィルタードリップのおいしさを韓国にも広めました。パクさんが韓国コーヒー業界の第1世代、教え子が第2世代」
パクさんは江原道(カンウォンド)に新店を作って移住したため、第2世代が引き継いだ〈Bohemian〉に通い、そこで働くようになったというキムさん。焙煎と抽出を覚え、〈Coffee Libre〉を開業、2014年にはキムさんが独立し、ソウルに〈Fritz Coffee Company〉が生まれる。この間に〈Bohemian〉時代の同僚がソウルで〈Anthracite Coffee〉、済州島で〈Coffee Temple〉を開業。キムさんは、韓国コーヒー業界にスペシャルティコーヒーを持ち込んだ自分たちを第3世代という言葉で譬(たと)える。
「一方、海外からも変革の波は押し寄せます。まず1999年に韓国に上陸した〈スターバックス コーヒー〉。この頃はロースタリーカフェがほぼなかったので、おいしいコーヒーを飲むならスタバとの風潮でした。エスプレッソ系ドリンクも一気に身近に。すぐ提供されてさっと飲めるアイスアメリカーノがソウルの忙しい人たちの定番になりました」
第2の波は2015年前後に、オーストラリアから。メルボルンなどで経験を積んだバリスタが、コーヒーの味に加え、空間にもこだわる現地のカフェカルチャーを持ち込んだ。
「第3の波として、19年にアメリカ〈BLUE BOTTLE COFFEE〉、24年にはノルウェーの〈FUGLEN〉が来襲。前者がソウルに上陸した時は、4時間待ちの行列ができたほどです。香ばしいコーヒーを好む韓国の人たちが一気に浅煎りを飲み始めました」
嗜好が多様化し、さまざまな風味のスペシャルティコーヒーがある今、家飲みも流行中とキムさん。いつでもどこでも美味なる一杯を飲めるのが、韓国のコーヒーシーンの現況だ。
